2006年8月31日 (木)

出目王(デメキング)・・・6

 携帯電話を手にして通知された番号を見ると見覚えの無い数字が並んでいる。
 (誰だろう?)
 と思い出ると
 「ごめん!寝てた?」
 と元気のいい女の声が耳に飛び込んで来ていっきに目が覚めた。
 「誰?」
 「私よ」
 今度は声の主が瑞穂だということがすぐにわかった。
 「幽霊やなかったみたいやな」
 「ちゃんと足もあったでしょ」
 確かに夕方会った瑞穂には両足はしっかりあった。
 瑞穂に聞きたいことがいっぱいあリ過ぎる。
 何故養成所に入ったのか。病気はどうなったのか。何故夕方黙って姿を消したのか。そして一番聞きたいことは 何故中学を卒業したとたん黙って自分の前から姿を消したのか。
 とにかく謎だらけだった。
 何から聞いていいかわからず、とりあえず自分の携帯の番号をどこで知ったのかを尋ねた。
 「一カ月前に山下君と環状線で会って教えてもらったの」
 中学時代からの友人の山下なら瑞穂に拓哉の携帯番号を尋ねられたら迷わず教えるだろう。
 しかし拓哉の頭にある疑問が浮かんだ。
 山下とは先週久しぶりに会いミナミの居酒屋で朝まで飲んだ。しかし瑞穂のことは何も話さなかった。
 拓哉が瑞穂のことを忘れるのに半年かかったことも山下は知っていた。
 そんなことを考えていると逆に瑞穂から質問をぶつけてきた。
 「相沢君、相方は決まっているの?」
 「今日入学したとこや、これから探すよ」
 「良かったら私どう?」
 「お前と?」
 確かに瑞穂は中学の時笑いのセンスはあった。深夜放送に投稿してはよく記念品をもらっていて当時のパーソ ナリティーに名前を覚えられていたほどだった。
 「私と組んだらすぐに売れるわよ」
 「何言うてんねん」
 「ぼやぼやしてたら他の人とコンビを組んでしまうわよ。それでもいいの」
 彼女の積極的な性格は昔のままだった。
 そして中学2年の夏、瑞穂と交際を始めた時も同じだったことを思い出した。
 放課後補習を終え走って帰宅しようとする拓哉と部活帰りの瑞穂が正門を出たところでぶつかってしまい瑞穂は 転倒する。
 拓哉は瑞穂を起こし謝った。
 幸い瑞穂にケガはなくホッとした。
 瑞穂はとなりのクラスだったが可愛いく活発で明るい彼女は拓哉のクラスでも人気があった。
 その春に転校して来たばかりの瑞穂とは話したことは一度も無かった。
 ひたすら謝る拓哉に瑞穂は
 「許す代わりに家まで送ってね」
 と微笑む。
 川筋を3分ほど歩いたところで瑞穂が
 「私前から相沢君のこと興味あったの」
 「実は、俺もやねん」
 それから5分会話がないままひたすら川筋を歩いた。
 「相沢君、私と付きあってくれない」
 「ええ!」
 「ぼやぼやしてたら他の人と付き合うわよ。それでもいいの」
 それから卒業するまでまわりも羨むような拓哉と瑞穂の恋物語が続いた。
 「相沢君、私とコンビを組むの、組まないの」
 と激しく返事を催促する。
 「わかった。組もう」
 「じゃあ、がんばろうね」
 と一方的に電話を切る瑞穂。
 結局拓哉が聞きたかったことは何も聞けなかった。


 村上太
 

 

 

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2006年8月26日 (土)

出目王(デメキング)・・・5

階段を上りきってあたりを見回した。
雨はさっきよりも激しくなっていて、10メートル先も見えない。
瑞穂の姿も。

(どこに消えた・・・?)

地下への入り口にぼーっと立ち尽くす相沢を、たくさんの人が迷惑そうな目で階段を降りていく。
「兄ちゃんそこ邪魔やで!」
目の前に現れた大きなトラに言われて我に返った。
いやよく見たら言ったのはトラじゃなく、
リアルなトラが描かれたTシャツに黒いスパッツを着たオバちゃんだった。
ちょっと恥ずかしい気持ちになり、オバちゃんを無視して小走りで階段を下りた。
瑞穂の言葉を思い出しながら。

『・・・・・私なぁ・・・、死んでもうてん。』

(どういう意味なんや・・・?さっきのは幽霊なんか?いやまさか?脳死なったとか・・・?ちゃうやろな。なんの病気したかしらんけどけっこう元気そうやったな。そやけどなんでアイツがお笑いなんか?めっちゃ普通の子やったのに?)
数年ぶりに現れた瑞穂はナゾだらけであった。
「・・・まあええか。これから毎日養成所で会えるんやし。」


家に帰って、何か食べようと冷蔵庫を開けているとオカンが寄ってきた。
オカンは相沢の友達からは影で”グッチ”と呼ばれている。
顔がグッチ裕三に似ているからだ。
「アンタ、どうやった?」
「なにがやねん。」
「なにがて入学式やん。アンタ売れそうか?」
「入学式でそんなんわかるか!」
「今のうちにサインもろとかなあかんな。」
「うっさいんじゃ!むこう行け!」
これ以上オカンと喋りたくなくて、目の前にあった大福とコーラを取ってさっさと自分の部屋に入った。
(本物はおもしろいのになあ。似てるだけじゃあかんねんなあ。
俺あんなんの遺伝子で漫才できるんやろか。
あ、俺はツッコミしたらええか。はよおもろい相方見つけよ・・・・・・。)


♪♪♪こっいはサ~フィン! なっついろにイェ~イェ~! ひっかりよ~♪♪♪

(あれ!?今何時や!?)
いつの間に眠ってしまったのか、目覚めたときには大音量でタッキー&翼の着うたが鳴っていた。


『出目王』・・・5  杉岡みどり


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2006年8月22日 (火)

出目王(デメキング)・・・4

「ひさしぶりやのぉ。」と相沢。
「だよね。」とイタズラっぽく笑ってみせる竹下瑞穂。
「お前、その関東弁なんとかならんか?」
「だって・・・。」

「お前、生まれは何処やねん?」
「神田の生まれよ。」
「『おっ、江戸っ子だねぇ!』って返すか!ボケッ!お前もバリバリの姫路やないかい。」
「今のノリツッコミ?」
「お前は知らんやろうけどなぁ。世の中には色んなのりもんがあんねん。その上にまだ、 そんなんええねん。」

急ぎ足の相々傘で2人。離れていた時間などなかったような会話。
「相沢君って、昔から芸能界に憧れてたもんね。」
「まあな。・・・・・そやけどお前。  転校してちょっとしてから、なんでメールくれへんようになってん?」
「・・・・・。」
ミナミの地下街に入る所まであと少し。

「なんでお前がお笑いの養成所なんかにはいんねん?」半歩下がって傘を差し出しつつ歩く竹下瑞穂は答えに窮してるのか雨を気にしてるのか困ったような表情。
地下街に下りる階段に入った。雨をよける為か狭い階段に、後から後から人が入ってくる。

「栗原が言うてたけど、なんか、お前、ややこしい病気にかかったんやろ?」
後ろで傘をたたむ気配がない。

「そうや。 ・・・・・私なぁ・・・、死んでもうてん。」
人を押しのけダッシュで階段を上りながら叫ぶ。 「瑞穂! ちょっ・・・。 瑞穂!」


『出目王』・・・4 ティーアップ前田

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2006年8月14日 (月)

出目王(デメキング)・・・3


 入学式が終わりエレベータで降りて来ると外は小雨が降っていた。
 天気予報がハズレたらしくほとんどの者は傘を持っておらずエレベーターの前には人がたまっていた。
 (俺とコンビを組むやつは一体どいつやろ)
 と目をキョロキョロしていると長髪で革ジャンを着た30ぐらいの男が近づいて来て
 「あんた一人か?」
 と話かけられる。
 (何やこいつ)
 と思ったがそこは俺も大人
 「そうやけど」
 と答えるとすかさず
 「俺とコンビ組まへんか」
 確かに俺も相方を探してキョロキョロしていたが、あまりのストレートな言葉に返す言葉が出て来なかった。
 すると
 「俺と一緒にビックになろうぜ」
 (それもいうならビッグやろ!)
 と心の中で叫んだ。
 「俺とお前が組んだら敵なしやで」
 (今初めてしゃべったとこで何でわかんねん!)
 と再び心の中で叫ぶ。
 「なぁ、組もうぜ」
 とたたみかけるように話して来る。
 うまくいけば50年コンビを組むかも知れない漫才コンビの相方を名前も何も知らないで
 「わかりました」
 と返事をするやつがいると思っているのか・・・・・・。
 「おい、ちょっと待てよ」
 頭に浮かんだ精一杯の返事だった。
 その後やつの口から出た言葉にさらに驚いた。
 「俺はミスチルのように人の心に響く歌を聴かせるシンガーになりたいんや。お前は?」
 「はぁ?」
 「お前は何を目指してるんや?」
 「俺は勿論漫才を中心にテレビで活躍する芸人や」
 「あぁ、そっちね」
 (そっちもこっちも無い、ここに来るやつは皆そうやろ!)
 心で叫ぶ声が大きくなった。
 「シンガーになりたかったらバンドでも組んでライブとかやったらどうやねん。何でこんなとこに通うんや?」
 「この方が近道やろ」
 芸人でCDを出した人はたくさんいるがミスチルほどになった人は聞いたことがない。
 こんなやつに丁寧に断るのもあほらしくなり黙ってビルの外へ出た。
 振り返ると革ジャン野朗は歯抜けに声をかけていた。
 (何と切り替えの早い男や)
 しかしあきれて怒る気にもならない。
 何故か興味がありしばらく様子を見ているとウマが合うのか意気投合していた。そして肩を抱き合っている。
 どうしてそんなわずかな時間であんなに打ち解けあえるのか不思議だが自分には関係ない。
 しかしあの二人がコンビを組んでもし売れたら、俺は今からイチローを目指してやると心に誓い雨に打たれ走ろう とした時、オレンジ色の傘がそっと相沢を包んでくれた。
 振り返ると傘を持ってにっこり微笑んでいる女の子が目に飛び込んで来た。
 ピンクのシャツに白のスカート。ショートカットでメガネをかけ清潔感を絵に描いたようなかわいい子だった。
 どこかで会ったことがあるような気がするが思い出せないと思った瞬間彼女の口が開く
 「相沢君、久しぶりね」
 「・・・・・・・・」
 「ほら、私よ」
 中学三年の時付き会ってた竹下瑞穂(みずほ)だとわかるまで15秒かかった。
 「竹下か?」
 「そうよ、やっとわかってくれたのね」
 「お前、何でここに・・・・・。お前もまさか・・・・」
 「そうよ。そのまさかよ」
 とにっこり微笑んだ。


 村上 太
 

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出目王(デメキング)・・・2

(尼は尼やんけ。なんかひとつひとつムカつくやっちゃなあ・・・。こんなアホの歯抜け、絶対女から人気出えへんわ。)

自分が女から人気が出る保障などないのにそんなことを思った相沢は、それ以上喋る気が失せて黙った。
歯抜けも黙っていた。
その時、ちょうどオッサンの長いあいさつが終わり、かわりにさっきのオッサンより10才ぐらい若そうなオッサンが登場した。

(ん?なんか見たことあるようなオッサンやなあ・・・?誰や?)

すると歯抜けがうれしそうに喋りかけてきた。
「あれオドルが捕まったとき記者会見してた人やんな!」

言われてみれば、2年ほど前にベテラン漫才師『山川ハシル・オドル』のオドルが暴行事件で捕まったときにワイドショーで謝っていた人物だった。
東京での仕事を終えた『山川オドル』は新幹線で移動中に好物のみたらし団子が食べたくなり、
車内販売の女性に「オイねえちゃん!みたらし団子なんぼや!」と聞いたが、
新幹線では販売していないうえ「あべ川もちでしたらございますが」といわれたことに腹を立て女性に暴行を加えたという。
同じ車両に乗っていた複数の客が「モチと団子を一緒にすな!」との怒鳴り声を聞いたとインタビューにこたえていた。

相沢はこのタレント養成所を受けてから初めて『テレビで見たことある人』を見て、ようやく
(オレはテレビの世界に入ったんや)
と実感できた気がした。
さっきのオッサンは普通のオッサンに見えたので話を聞く気にならなかったが、こんどは全ての入学者が思ったようだった。
「この人の話は聞いとこう」と。


『出目王(デメキング)』・・・・・・杉岡みどり

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2006年8月12日 (土)

出目王(デメキング)・・・1

4月1日。お笑いタレントが多数在籍する某タレント事務所のタレント養成所入学式当日。
相沢拓哉は漠然と芸能界に憧れてはいたが己の容姿を考えると男性アイドルには到底なることは無理と考え今のお笑いブームに乗りさえすれば世の中を渡っていけると思っていた。

前で話すおっさんの話に飽きだした。周りに目をやり(ようさんおるけど、もっさいヤツばっかりやのぉ。)
偶然右隣に居合わせた野郎に小さい声で話しかけた。「なあ、ジブンどっから来たん?」
「えっ?俺か?」と、こちらに顔を向けたそいつには前歯が1本ない。(お前に話しかけてねんから、お前に決まってるやんけ。 で、なんやこいつ歯あれへんやんけ。 多分アホやな。)

「ジブンはどっから来たん?」と相沢の耳元に口を近づけ訊き返す歯抜け。
「違うがな。俺から訊いてんねん。」
「普通は自分から言うんとちゃうんか?」
(細かいヤツっちゃな。)「俺は姫路や。ジブンは?」と相沢。
「姫路か・・・。遠いな。」と言ってから顔を前に。

「・・・・(この歯抜けは、ほんまに。)あのな、お前はどっから来てんねんって訊いてんねん。」
「あぁ、俺か?」
「お前や。」
「俺は武庫之荘や。」
「なんや、尼(尼崎)か?」
「尼って言うな。」


『出目王(デメキング』・・・・・ティーアップ前田

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2006年7月24日 (月)

ありがとうございました。ティーアップ前田です。

私のブログにも書かせてもらいましたが、この「沈まぬ携帯」を愛読して下さった方、またオフ会に来ることができなかった方、小説を書くなんての素人3人に応援して頂いた方々、全ての人が「沈まぬ携帯 制作委員会」のメンバーであると(勝手ながら)私は思っております。

「沈まぬ携帯」を書き始めるにあたって3人で会議みたいなものをし、書く順番と題名で少しだけもめましたが、1人10話で全編30話。引き継ぐ書き手は3日を限度(後半、更新する日はバラバラになりましたが)。前の人が書いたストーリーをなるべく引き受けつつ話を進める。と会議?の決め事は3つで始まりました。

話が進むにつれてコメントもたくさんいただけるようになり、私達も励まされました。3人の個性が話の進め方にも出ていて、(ここは決めてやろう!)というのが見えましたし、私もそうしました。

私の書くところにおいては、主人公の睾丸破裂。「ちとせ」で働く年上の子。
「きつこ」のキャラクターを立たせ、親友の麻を大事に思う気持ち。(きつこファンが多くてにんまり)

そしてラスト。兵動、清水さん、また読んでいただいた方々、あれで良かったかな?

年内には、リレー小説をまた始めてみたいと思います。またこの3人で、やってみようと気持ちも「大!」です。

一時はブログランキングの2位までいってたので、次回この3人で書くなら1位を目指します。
で、またオフ会なんかも企画します。

本当にありがとうございました。

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2006年7月22日 (土)

本当にありがとうございました! 清水です。

オフ会にお越しの皆様、
今まで『沈まぬ携帯』を読んでくださった皆様、
本当にありがとうございました。

オフ会から2夜明けて、未だ余韻に浸っております。
本当に素晴らしいオフ会でしたね!

私も2次会どころか、このままこのメンバーで
旅行でも行っちゃいたい! と思うぐらい、
皆さんとあのまま別れるのが名残惜しかったです。

「沈まぬ携帯 カルトクイズ」は、すごく楽しかったと同時に
あれだけ細かいとこまで皆さんが覚えていてくださった事に
感激しました。

あれだけ沢山のアクセス数があったのも、
前田さん、兵動さんあってのことですので
お二人には心から感謝しています。
今まで本当に、ありがとうございました!

皆さんからのコメントを読ませて頂いたり
オフ会でこんな楽しい経験をさせて頂けて、
「本当にこのリレー小説に参加させて頂けて良かった!」と
つくづく思いました。
「これからもっと頑張りたい!」という励みになりました。

またこのような会があることを楽しみにしています。


『沈まぬ携帯』 作者2・・・清水亜希

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2006年7月21日 (金)

オフ会ありがとうございました!兵動です。

オフ会ありがとうございました。
たくさんの方々が来てくれてて感激しました。

オフ会が始まった時、どういう動きをしたらいいか分からず、
僕のポジショニングは・・・

『嫁側の実家の法事に参加した旦那』

という感じでした。

時間が経つにつれ会話も弾み『沈まぬ携帯カルトクイズ』
に関しては最高の盛り上がりで嬉しかったです。

何より、皆さんがこんなに沈まぬ携帯を真剣に読んでくれてるねんな~と思いましたよ。

クイズはかなり難しいと思います。

僕は1問も答えられないと思います。

「1200万円」の答えは凄すぎて、メガネが曇りながらずれました。

いい経験が出来ました。

こんな素敵な場を与えてくれた、前田兄さん、清水さん、オフ会に参加していただいた方、
残念ながらオフ会には参加出来なかったですが、沈まぬ携帯を愛読してくれていた多くの
方々、なんやったらこのシステムを提供してくれたココロブまで、全ての方に感謝致します!

本当にありがとうございました。

また、こんな機会がありますように・・・。


『沈まぬ携帯』・・・1作者、兵動 大樹。


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2006年7月17日 (月)

7/18(火)オフ会の件

オフ会にご参加の皆様。

当日は、『沈まぬ携帯・制作委員会』で予約しています。
(もしくは、「清水」で)

うめだ花月上、5階の「和民」入り口にて、そうお伝え下さい。
20:30スタートです。(約2時間)

3000円位の会費制でお願いしたいと思います。

もし遅れそうな方や、どうしても来れなくなった方は
こちらの記事にコメントください。
当日の5時頃まではチェックできるところにおります。

※今のところ「沈まぬ携帯・30」の前田さんの投稿のコメントに
参加エントリーしてくださった方、皆さんオッケーとさせて頂いております。
(お友達も、と書いて下さったかたも大丈夫です)

では、明日、楽しみにしてますので
どうぞよろしくお願いいたします。


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2006年7月10日 (月)

沈まぬ携帯・・・30

出会い系サイトからの返信。「おっ?キタんちゃうん!」と出先で携帯をチェックする二宮。
内容は「いくら、お小遣いいただけますか?」「ちなみに倖田來未に似てると言われます。」
(小遣い?何ぬかしとんねん。俺はそんなん求めてないねん。な~にが倖田來未や。ただ太いだけやろう。)

会社の一年後輩に電話するきつこ。「なぁ、今日空いてる?」「はぁ・・・。どうしたんですか?」「おいしいケーキ屋さん見つけたから、そこのケーキ買って部屋に行っていいやんな?」「え~と・・・。」「なに?予定あんの?」「い、いえ。待ってます。」

「わぁ!カワイイ。」とケーキを見るなり喜ぶ後輩の子。「そやろ~。見た目だけとちゃうねんで。」「紅茶でいいですか?」「うん。」一口食べて「あ!ほんまにおいしい!」「でなぁ、ちょっと聞いてくれる・・・。」「はい。」「なんか、三角関係みたいになってもうてなぁ・・・。私フラレんねん。」「え、えぇ?」 太郎、麻、きつこの間にあったことを努めて愚痴っぽくなく話すきつこ。「でも、それって松岡さんらしくないですね。」「そう思う?」「白黒ハッキリさせないんですか?」「・・・植木君とはもう会えへんよ。でも、グレーでおいとく関係も必要やん。」「そうなんですか?」「・・・・・。」(麻とはこれからも友達やもん。・・・ちょっと時間がたったら、私から連絡しよう。)「この部屋、見晴らしいいなぁ。」
「えぇ。・・・まぁ。」

「な~んか、今日は腹立つぐらいに晴れてるよね。」

観戦中、いつの間にかの入道雲。照りつける太陽。
9回2アウト2、3塁。一打逆転。太郎の母校の攻撃。
喉も裂けよと声援を送るベンチ入り出来なかった後輩達。女子生徒は胸の前で両手を組み祈るようにうつむき
涙ぐんでいる。

「なぁ・・・。付き合ってくれへんか?」と太郎。麻の顔も見ずに。
驚き、太郎の横顔を見つめる麻。
「・・・・・。」
「きつこちゃんのことは、ちゃんとするから。・・・・・付き合ってほしい。」
カキィーンッと金属音。どよめく球場。
聞き逃しそうな麻の声を太郎はハッキリ聞いた。
「・・・・・はい。」

『沈まぬ携帯』・・・30 ティーアップ前田


とうとう最終話になってしまいました。コメントをくれた方、ランキングバナーをクリックしてくれた方ありがとうございました。オフ会は一応7月18日(火)20時30分から、うめだ花月上の「和民」で行う予定です。予約をいれたいので参加の方、すいませんがもう一度コメントを入れてください。当日は全30話をプリントアウトしてお配りします。
5ヶ月もの間、兵動、清水さんお疲れさんでした。楽しかったよ。ありがとう。応援していただいた皆様にも
感謝です。ありがとう。

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2006年7月 3日 (月)

沈まぬ携帯・・・29

太郎は麻とのデートに、どこに行こうか考えた。
麻が以前、行きたいとメールしてくれた
『名探偵コナン~沈まぬ携帯~』はとっくに終了してしまっていた。

理由はどうあれ、女の子が勇気を出して誘ってくれたデートを軽く流してしまった俺って、本当に失礼でどうしようもない男だったと後悔した。
今度のデートでは、仕事を頑張ってる麻に優しくしてあげたい。金曜日の晩、太郎は麻にメールを送った。

『日曜日、どっか行きたいとこある? どこでも連れて行くで。コナン終わってしまってゴメンな』
『どこでもいいですよ。植木君の行きたいところは?』

(俺の行きたいところか~)
実はその日曜日、太郎には行きたいところがあった。
でもそこは、初デートで女の子と行くような場所では決してなかった。
しかし麻ならなんとなく、イヤな顔せず一緒に付き合ってくれる気がしたので、こう返してみた。

『ホンマにどこでもええの? だからと言ってこの暑い中、俺の母校の高校野球の試合観戦なんかイヤやんな?』

『アリですね。私、大の巨人ファンだった祖父と一緒に野球ばっかり見てたから、野球好きですよ。それに久々に、そういう青春っぽいもの観てみたいかも。』

即答してくれた麻が、嬉しかった。
太郎が今まで付き合ってきた女の子の中には、こういう反応をしてくれる子はいなかった。

この夏、太郎の母校は初戦から、あのPM学園と当たるのだった。
この対戦を新聞を見て知ったとき、なぜだか久々に応援に行きたくてたまらなくなった。日曜がちょうどその試合の日だった。


初めてのデートに車でってのもどうかと思ったが、球場が舞洲という不便なところだったので、麻の同意を得て、愛車で麻の最寄り駅まで迎えに行った。

麻が着てきた小花柄の半袖のシャツと白い帽子が、夏らしくて眩しかった。
舞洲までの約1時間のドライブは、すれ違いばかりだった2人の気まずさを埋めるのに、ちょうど良かった。改まって向かい合って話すより、お互いの表情が見えない方がしゃべりやすかった。

球場に入った2人は、母校側の応援席の上部の、影になってる場所に座った。
太郎は試合が始まるまで、高校時代の野球生活の思い出なんかを麻に話した。
麻も嬉しそうに、その話を聞いてくれた。

しかしプレイボールのサイレンが鳴ると、太郎は急に黙り込んだ。
10年ぶりに見る生の高校野球を見て、忘れていたいろんな感情が込み上げてきていた。

(俺もこんなに純粋に野球に打ち込んでた時期があったんやな……。
今は仕事の後に飲みに行くかコンパに行くことだけが楽しみで、こんなに何かに夢中になることって、忘れてたなぁ)

チェンジの間にお菓子を渡してくれた麻にハッとして、こう言った。
「あ、俺、必死で見てて黙っててごめんな。自分から誘っといて、勝手に自分の世界に入ってたわ」
「全然っ。私も自分の学生時代の部活のこととか思い出して、しみじみしてたから」
「ほんま? でも二宮とかやったら女の子を楽しませられるんやろうけど、俺そういうことに気が回らなくてなぁ」
「なんで二宮さん? 逆に今、二宮さんみたいによくしゃべる人に横にいられたらちょっとイヤやわ」
麻は二宮に申し訳ないというカンジの表情で、ちょっと笑った。

太郎は、自分と同じことに感動してくれる麻を、そして、素の自分を受け入れてくれそうな麻を温かい気持ちで見つめていた。

『沈まぬ携帯…29』 清水亜希


-----------------------
今回で私の番が終了しました。
ずっとお礼が言いたかったのですが、今まで読んでくれた方々、私にまでコメントを丁寧に書いてくださった皆様、本当にありがとうございました! 密かにコメントを参考にさせて頂いたりしておりました。
皆様に会えるオフ会が、今からとても楽しみです。お1人様でもお気軽にお越しいただけたらと思います。引き続き、参加ご希望の方はコメント欄にエントリーをお願いいたします。
では、最後の前田さん、ヨロシクお願い致します!

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2006年6月22日 (木)

沈まぬ携帯・・・28

麻は電話を切った。

そして、クスッと笑ってしまった。

切る前に、携帯の画面を見た。

麻が電話を切るまで、通話時間がカウントされていく。

太郎から切ろうとしていないのだと思った。

麻はイタズラ気分で、カウントされていく通話時間を見ながらカウントダウンし始めた。

(10、9、8・・・・・2、1、0)

0と同時にゆっくりとボタンを押した。


正直、病院で振り返った時に太郎が立っていた時はビックリした。

太郎と分かった時、一定のリズムでボールペンの後ろのボタンをカチャカチャ押していた指が止まった。

時間もが止まった気がした・・・。

電話番号を受け取ってから、麻はいろいろ考えた。

(電話していいのかなぁ?)

電話をかければ、麻はかけがえのない宝物が手に入るかもしれないと思った。

しかし、その新しい宝物を手に入れれば、今まで大事にしていた宝物を失くしてしまいそうな不安もあった。

でも、麻は太郎に電話をかけた。

新しい宝物を求めた。

太郎と喋りたい事は山のようにあったが、太郎の声を聞いたら声がでなかった。

太郎と喋っているという実感より、今までの太郎への思いが胸の中でグルグル回りはじめてドンドン膨らんでい

く。

割り箸で綿菓子を作っていくような感じで・・・思いがだんだん大きくなり胸がいっぱいで喋れなかった。

麻は電話を切ってからすぐにスケジュール帳をカバンから出した。

”今週の日曜にしよう ”

携帯を出してメールした。

「この前はごめん。今度の日曜に太郎くんと会います。がんばるね。ありがとう」

失くしたくない、もう一つの宝物・・・きつこにメールした。

太郎は電話を切ってから考えた。

(なかなか切らんかったけど・・・なんか言いたい事でもあったんかな?)

太郎は部屋で横になりながら、携帯の画面を眺めていた。

(なんかあったらすぐにかかってくるかなぁ?・・・ん?俺からかけた方がええんかなぁ?どうしよ?あんまりかけた

らしつこいかな?こうやって待ってて、もしかかってきてすぐに出たら、待ってましたオーラ満開かな?)

そんな事を思っている時、太郎はきつこには思わない感情を麻には感じている自分に気がついた。

そのまま、メールの画面にし・・・

「麻ちゃんと会う約束した~。何やろ?それだけ伝えたかってん。おやすみ」

ときつこにメールした。


部屋で横になり、サンテレビで延長に突入した阪神戦を見ていたきつこの携帯から

氣志團の『愛羅武勇 』が鳴った。

(メールや)

寝ながら手を伸ばし携帯を取って、メールを見た。

太郎と麻からのメールが来ていた。

寝転びながら二人の内容を読んだきつこは笑みを浮かべ、足元に置いてあったプーさんのぬいぐるみに軽く2発

『かかと落し』

をしながら・・・

「それでいいと思います」

と、かかと落しで迷惑そうな顔に見えるプーさんに言ってみた。

その頃、二宮も携帯の画面を食い入るように見つめ・・・

『出会い系サイト』の返事待ちをしていた。


『沈まぬ携帯・・・28』 兵動  大樹


今回で僕の出番が終わりました。

読んで頂いてた方・・・ありがとうございます。

あと2話で完結となります。

完結になりましたら『沈まぬ携帯』を愛読して頂いてた方と、この物語を書いていた3人で

オフ会をしたいと考えております。

日時はまだ未定ですが、場所はうめだ花月の上、5階にある「わたみ」で行いたいと思っております。

個人的に連絡が取れないので、参加希望の方はコメントを入れて頂きたいと考えております。

その人数で予約したいと思ってます。

よろしくお願い致します!!

あと2話!!!

お楽しみに~~~。


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2006年6月13日 (火)

沈まぬ携帯・・・27

中之島のS病院。親戚の叔父に見舞いに行ったが麻を見つけることが出来ない。
今日は休みなのか・・・。総合案内で尋ねてみようと廊下を曲がると麻らしき看護師が前を歩いてる。

「あの・・・。松下さん。」
「はい。」振り向いた麻は驚いたように目を見開いている。
「・・・どうしたんですか?」
「いや、親戚のおっちゃんがここに入院してんねん。見舞いはすんだんやけど、ジブンを探しててん。」「これ、俺の携帯の番号。」とあらかじめかいていたメモを手渡す太郎。
「・・・・・。」それを受け取ったが何も言わずに背を向け歩き出す麻。

「・・・待ってるから。」

その日から携帯を片時も離さず寝る時は枕元に置き、目覚めると着信がなかったかと携帯を開けてみるのだった。

3日後、覚えのない携帯の番号から着信。

「もしもし・・・。」
「・・・松下ですけど。」
「かけてきてくれたんや。ありがとう。」
「・・・。」
「この間は、いきなりでごめんね。」
「・・・いいえ。」
「あの、電話やったらなんか伝わりにくいから、会うことできひんかな?」
「・・・・・。」
「・・・あかんかな。」
「・・・わかりました。私の都合のいい日でもいいですか?」


『沈まぬ携帯・・・27』 ティーアップ前田

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2006年6月 7日 (水)

沈まぬ携帯・・・26

麻のアドレスを入れて送信しようとした瞬間、突然帰った日のきつこの顔が思い浮かんだ。
かと言って、今きつこに送るのも違う。前回が前回だけに今度きつこを誘う時は、もう付き合う気で誘わないとダメだろう。麻のことも気になってる今の状態で会っても、また同じことの繰り返しだ。
二人が親友同士だということも、これまたネックである。

そんなことをアレコレ悩みながら、携帯のアドレスをめくっていると、「コイツや!」という名前を見つけた。
その名前は、二宮浩二。
一人で考えてても答えはスグに出ないので、女のことは二宮に相談しようと救われた気持ちになり、内容をちゃんと確認もせずに、二宮に送った。
しかし文面は、
『今日の夜、久しぶりに会いたいねんけど。食事でも行けへんかな?』。

スグに返信があった。
『どないしてん、気持ちの悪い。
「会いたい」ってなんや! 「食事」ってなんや~~!! カルーセル植木君よ』

やってもた……。太郎は顔が熱くなるのを感じた。
内容は同じでも、男のツレに対する言葉と、年下の女の子に使う優しい言葉使いは、確かに違う。照れかくしに、スグに返信した。

『カルーセル植木って、10数年ぶりに言われたわ! 
ちょっと送る相手間違えただけや。でも、お前でええわ。今日空いてる? 1杯行かへん?』

2人はミナミで待ち合わせ、旨いラーメンとギョウザをガッツリ食べた。
そして、二宮行きつけのショットバーへ入った。

「そう言えば、この前のコンパの件のやけどさぁ」
太郎は、いかにも今思い出したかのようなていで、話をふった。

「え、どのコンパ?」
「ほら、あの先月の、21歳の子らで、無国籍料理とカラオケ行ったやつ」
「ああ、あのビミョーやったコンパか。それがどないしたん?」
「松下っていう子とか覚えてる?」
「ゴメン、あんまり名前とか覚えてない。顔見たら思い出すかも」
「え、でもお前、あの子がいいって言うてたやん」
「そんなん言うたん、俺? いちいち覚えてませーん」
「これや」

太郎は二宮に、コンパ後の大体の流れを手短に話した。
「ふーん、そんなことになっとったんや。そんで、そのどっちにしようか迷ってんの?」
「おう」
「マジで? どっちがエエかぐらい、自分でわかるやろ?」
「それが、二人がそれぞれ違うタイプな上に、親友同士やったりするから、ヘタなことは出来へんなーと思ってる間に月日は流れ……」

「お前のそのマジメっちゅーか、煮え切らんとこは変わらんなー」
二宮は、呆れた口調で続けた。
「大体、あのコンパの日から何日経ってんねん。しかも、その麻っていう方とはあれから一回も会ってないんやろ?」
「はい」
「考えてる間に取りあえず会えって。会わずにメールだけやったら、お互い妄想が膨らんで、会った時に『アレ?』ってなんぞ。実際会ったらどっちが好きなんかわかるわ」
「はは~ん、なるほど」
「はは~んとちゃうで、兄さん。とりあえずその麻って子、ナースなんやったらその子の病院でも行ってきたら? お前、彼女の病院知ってんの?」
「中之島のS病院の外科やって」
「ふーん。お前、病院に用とかないの?」

「あ、そう言えば! そこの病院に、うちの親戚が入院してるってオカンが前に言うとったような……」
「それをはよ言わんかい」

『沈まぬ携帯…26』 清水亜希

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2006年6月 1日 (木)

沈まぬ携帯・・・25

太郎は考えていた。

どうしてきつこを部屋に誘ったのか自分でも分からない。

きつこの事が好きなのか?

本当は一人になりたくなかっただけなのか?

相手は誰でもよかったのか?

ただ、一人になりたくなかった・・・?

何故、一人になりたくなかったのか?

一人で居ると麻のことを考えてしまうからか?

きつこを家に誘った時、きつこの口から『麻』の名前がでた。

その瞬間、何故か心に染みた。

胸の中が熱くなった。じんわりと熱くなった。

中学生の時、初めて友達と二人で梅田に映画を観に行った。

映画を観た帰りに、高校生にカツアゲされた時も同じように胸が熱くなった。

『緊張』

そうなった時に胸が熱くなるのか?

自分で知らないフリをして隠しているものをきつこに見つけられてしまったような。

そんな気がした。

たまに食事に行くきつこは『現実』

連絡もしていないが、一人で居る時に自然に(何をしているのかな?)と考えている麻は『空想』

どちらの事が本当に好きなのか?

そろそろ自分の本当の気持ちを、自分自身も知りたいと太郎は思った。

きつこがコンビニの前からタクシーに乗って帰ってから1週間が経っていた。

太郎はメールを打った。

「今日の夜、久しぶりに会いたいねんけど。食事でも行けへんかな?」

という内容だけを打った。

まだ、メールアドレスは入れていない。

麻かきつこか・・・

携帯の画面を見ながら深呼吸した。

選んだアドレスは・・・・

asada.7.7・・・。


      『沈まぬ携帯・・・25』 兵動 大樹。


 


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2006年5月24日 (水)

沈まぬ携帯・・・24

「あっ・・・二宮君のこと・・・?」
その切りかえしを少し不思議に思った麻は「ううん。違う。あの人からはメールとかないもん。なんで?」
「だってコンパ終わりでちょっとそんなこと言うてたから・・・。」
きつこはなんとなく予想できた答えを聞きたくなかったが「・・・ほな、誰のことなんよ。」

「植木君のことなんやけど・・・。」
太郎と麻のいきさつをきつこは全て知っている。そして煮え切らない間柄も。こういう会話になるのを予想していた
きつこは昨夜思い悩み、答えがでないまま、今、この場にいる。

「なぁ。きつこ。あんた、まだ植木君とメールのやり取りしてんの?」
「えっ?」
太郎のことを好きになりかけているきつこは、麻との友情も失いたくない。

言葉を選ぶより正直に話そうと決めたきつこ。
「メル友かな・・・。たまにご飯食べに行くけど。」つとめて明るく「でも、向こうの奢りやで。」

「・・・メル友以上やん。」
「あんたと植木君のことが心配で、そこから・・・。」順を追って説明するきつこ。
「でも、それって当事者の私が入ってないやん。2人で会う口実ちゃうの?」
「結果はそうなってるかもしれへんけど・・・ちがうよ麻。」

太郎から部屋に誘われたことだけは言わずにいた。

窓の外を見る麻。 うつむき加減のきつこ。 しばらくの沈黙。

麻はきつこの方も見ずに「なんで・・・?もっと前に言うてくれへんかったんよ・・・。」
「・・・・・・。」

にじんでくる涙を必死にこらえる麻。
「私ら・・・友達ちゃうのん・・・。」と麻は声がつまってしまうのが口惜しい。

「ちょっと考えたいから。」席を立つ麻。
「ちょっと・・・麻・・・。」立ち去る麻の背に声をかけれない。

一人テーブルでうつむき涙が自然に。
(麻・・・。なぁ・・・。麻・・・。私はあんたのことが心配で・・・。あんたの気持ちを確かめたくて・・・。)
(・・・太郎君の部屋に行かへんかってんで・・・。)

「沈まぬ携帯24」・・・ティーアップ前田

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2006年5月20日 (土)

沈まぬ携帯・・・23

麻ときつこは、翌日の夕方、地元のファミレスで会う約束をした。

「ごめん、お待たせ~!」
麻が少し遅れて店に入ってきた。
「いいよ、いいよ。土日も仕事って大変やなぁ。顔がお疲れやで」
「うそ、やっぱり?」

とりあえず二人は、迷うことなくお互いが「いつものセット」を注文した。
二人にとってこの店は、子供の頃からよく来たとても落ち着ける場所だった。

「で、どうしたん? なんかあった?」
きつこから切り出した。
「うん。実はさぁ、昨日うちの病院に、誰が入院してきたと思う?」
「え、知らん。誰?」
「ハヤト」
「ウソ~~ッ!! まさか、アンタの元カレのバンドマンの、あのハヤト!?」
「うん……」
「ビジュアル系バンドのヴォーカルのくせに、色白で小太りのあのハヤトか!?」
「そう、もうサイアク。ライブ中にステージから転落して、両足骨折してんて」
「うわ、ダッサー。太ってんのにイキってるからそんなことなんねん!
大体、ヴォーカルがぽっちゃりしてるって、どういうことやねん!って前から言いたかってん!」
ナース仲間にはいないタイプの、勢いのあるきつこの毒舌を聞いて、少し気が楽になった。

「ハヤト見た時、アタシほんまに動揺して、固まってしまってん」
「そらそうやわ。だって、アレからまだそんなに経ってないもん」
「うん。しかもさぁ、周りに誰もいなくなった時、アタシに言ったヒドいことなんか忘れたみたいに、『お前とヨリ戻したいと思っててん』とか言ってきてん」
「くっそ、あのデブー。あー腹立つ!!
ってもしかして麻、ヨリ戻すとか言うんちゃうやんね??」
「そんなわけないやん。今まで何回もあの日の夢見てうなされたし、顔見ただけで吐きそうになったのに」
「そうやんな。で、バシッと断ったんやろ?」
「それがさぁ、あんな弱ってる姿見てしまったら、ちょっとかわいそうとか思ってしまって……」
麻がそう言った瞬間、きつこの眉毛がピクっとなった。

「はぁ? 何言ってんの? あんなヤツに同情なんかせんでいいわ。ほんまアンタってお人よし!」
なんできつこが急に怒ったのか、麻にはわからなかった。
「そんな言い方しなくてもいいやん。なんでそんな怒ってんの?」
「アンタがあのデブにあんなヒドい言い方されたって聞いた時、アタシまでがどんだけ悔しかったかわかってんの? もう、しっかりしてよ」
きつこの目から、涙がこぼれた。

「ごめん……、明日ちゃんと断るから。ありがとう」
そして、麻も泣いた。
「それでもしつこく何か言って来たら、私があのデブにバシッと言いに行ったるから任しとき!」
「うん! それにしてもさっきからデブ・デブって、人の元カレつかまえて……。別にいいけど」
二人は今日初めて、声をあげて笑った。

食べて・泣いて・笑ってスッキリした二人に、タイミング良くデザートのケーキが運ばれてきた。
麻は一口食べて、今日ホントは一番聞きたかったことを切り出した。

「あのさぁ、この前のコンパの人たちのことやけど……」
嬉しそうにケーキを食べていたきつこの表情が変わったのが、麻にも見て取れた。
二人の間に、重苦しい空気が流れた。


『沈まぬ携帯…23』 清水亜希

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2006年5月16日 (火)

沈まぬ携帯・・・22

「なんてね~~~~」と太郎はすぐにおどけてみた。

自分から部屋で飲みなおさへんかと言っておきながら、太郎はとぼけてみせた。

本心で言った。

勇気を振り絞って言った。


『部屋で飲みなおさへんか?』

それをきつこに言った時、きつこの顔がビックリしたような、ドキッとしたような、そんな表情になった。

その表情を見たとき太郎は怖くなった。

きつこの返事を聞くのが怖くなった。

だから、『冗談』にした。

「なんやそれ?」

ときつこは正面に立つ太郎から目線をそらして呟いた。

「え?」と太郎は聞き返した。

「なんやそれ?」と聞こえていたのに太郎は聞き返した。

「なんやそれ!」と大声できつこは太郎にもう一度言った。

「どないしてん?」きつこの迫力に少しビックリしながら太郎は聞き返した。

「行ってもええよ」と少し上を見ながらきつこは言った。

「ほんま???」今度は太郎が大声になった。

「うるさいなぁ~大きい声で~」ときつこは耳をふさぎ笑いながら言った。

「姉御~今日は飲み明かしますか!!!」と太郎は腰をかがめ、おひかえなすってポーズをとった。

「おう!明日は休みやし朝まで麻の話でも聞いたるわ~」

「なんで麻の話やねん、スキマスイッチのアフロの方について語ろうぜ」

正直、きつこの『麻』という言葉を聞いた時、太郎の心は染みた。

何かに染みた。

染みた事をきつこに悟られないように、太郎は笑顔を崩さなかった。


飲んでいた梅田から太郎の家は私鉄の急行で15分の所だった。

駅を出て大きな道路沿いを歩いて太郎の家に向かった。

途中で酒とつまみを買うためにコンビニに入った。

「やっぱり焼酎は下町のナポレオン『いいちこ』やろ」

「私は芋焼酎がええねん。それ麦やろ?」

「贅沢な女やなぁ」

「後、氷と水やな」

「私、緑茶で割るから2、3本買ってて~」

「お前はセレブやな~叶姉妹顔負けやでぇ」

キャッキャ、キャッキャ言いながら次々とカゴに品物を入れていく。

どう見ても、お泊りでテンションが上がっているカップルに見える。

カゴに満タンになった品物をレジに持って行く。

「支払いお願い致します~外で待ってます~」ときつこはハシャギながら店を出た。

「おい!ちょっと~」と叫ぶ太郎。

テンションが低そうな店員にジロっと見られ太郎は咳払いをしてうつむいた。

店を出て「お前、これ重たいぞ~」と後ろを向いてるきつこに行った。

その声で振り向いたきつこは何かを我慢している顔で「やっぱり帰るわ」と太郎に言った。

「えっ、なんでやねん?どないしてん?」

「帰るねん」

「何があったんや?」

「何にもないよ。帰る。ごめん」

と言いながらきつこは道路沿いに立った。

「どないしてんって」

太郎の言葉には振り返らずにきつこは手を上げた。

夜中近い時間だが、大きい道路はまだ交通量も多くすぐにタクシーが停まった。

「またメールする」とだけ言ってきつこはタクシーに乗った。

何が起こったのか太郎は理解出来ない。

タクシーが発車する時に後部座席の窓が開いた。

きつこが「こっちからメールするから」と言ったと同時にタクシーは走りだした。

太郎はコンビニの前で立ち尽くした。

「俺、緑茶飲まへんで」


きつこはタクシーの窓から景色を見るでもなく、ただ目線だけを外に向けていた。


「ふ~」

とため息をついて、カバンから携帯を出してコンビニから出てくる太郎を待っている時に来たメールを読み返した。


「夜遅くにごめんな。
 明日は休みかな?
 相談があるねんけど、
 明日会える? 麻 」

   『沈まぬ携帯・・・22』  兵動 大樹

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2006年5月 9日 (火)

沈まぬ携帯・・・21

きつことお茶したその日から、なんとなく2人で会う日ができた。約束をするというのでもなく「今日、何してんの?用事なかったら仕事終わりでメシでもどうかな?」とメールを送る太郎。「いいけど、当然奢りやろな?」と返信するきつこ。

「お前、その言葉使いなんとかならんか?」
「お嫌いですか?」
「お好きです。」
そんなメールのやりとりの後に会うと2人とも二宮、麻の話をなんとなく避けていた。

2人だけで何度目かの夕食のある日。2軒目できつこはいつもより酔っていた。
「太郎君てなぁ。ほんまは麻のことが気になってんのとちゃうん?」
「そんなことないよ。」
「そうかなぁ。あの子、いい子やねんで。」「あっ、もうこんな時間。帰らな。」ときつこ。
「・・・そうやな。」

お勘定をする太郎を店の外で待っていた。小雨が降ったのか路面が濡れている。小さな水溜りにネオンや街灯が鈍く映っている。
知らず知らずのうちにうつむいてきつこは太郎を待っていた。
「ご馳走様でした。」「ええよ。」

駅に近づくにつれて人が多くなってきた。言葉を交わさない2人。
(何故、寂しいんだろう・・・。)

立ち止まりきつこの目を見つめる太郎。
「・・・なぁ。俺の部屋で飲みなおさへんか。」


「沈まぬ携帯」・・・ティーアップ前田。


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2006年5月 5日 (金)

沈まぬ携帯・・・20

メールを送信した麻は、自転車に乗って病院を出た。
なんとも言えず、すがすがしい気分だった。
ウジウジしてた自分から、やっと一歩外へ踏み出せた気がした。

(吉村さんの言うとおりやわ。自分の正直な気持ちを伝えるって気持ちいい~)

いつもはそんなスタイルは好まないのだが、今日はカバンを斜めがけにしてアクティブな感じで自転車をこいだ。カバンに入っている携帯の、太郎からの返信のバイブにスグに気づきたいからだった。

「あ、鳴った!」
あわてて自転車を止め、カバンの中の携帯を取り出した。
そこには無情にも、さっきから5分と経っていない時計が大きく表示されてるだけだった。

(あ、レザーのカバンがきしんだだけやったんやわ……)
麻は照れながら携帯を再びカバンにしまい、またこぎ出した。
そして、冷静な麻らしくもなく、その同じ失敗を何回か繰り返した。

今度こそカバンをとおして、今までのとは違うしっかりとした振動を右の腰に感じた。
(う、来ちゃった。はぁ~見るのこわーい)
楽しみ6割、不安4割で携帯を開いた。
送信は、やはり太郎からだった。

『仕事忙しかったら無理せんでいいよ。仕事頑張ってな。
追伸:二宮って覚えてる? アイツが君のこと気に入ってたで!』


きつこに、悪意なんてなかった。
太郎とお茶した、あの日のことだ―――――。

太郎から、「麻を映画に誘ったけど、忙しいから断られた」と聞かされた。
「うん。あの子、仕事ほんまに大変みたい。
コンパの日も、乗り気じゃない麻を強引に連れ出したのは私やし」
(せっかく会えたのに麻の話か)って少しふてくされながらも、きつこはありのままそう答えた。

「ふうん、ほんまに大変やねんな。オレ、やんわり断られてんのかと思ったわ」
太郎は少し嬉しそうな顔をして、持っていたタバコの灰を灰皿に落とした。
きつこは、太郎のその均整のとれた指に見とれていた。

「あっでもね、コンパが終わった日の帰りは、麻は二宮さんがいいって言ってたような気がする…」
きつこは申し訳なさそうに、しかし目は太郎の表情を鋭く監視しながら、そう言った。
実際、そうだったのだ。コンパの帰り、きつこは麻に「ねぇ、誰か気に入った人いたぁ?」と聞いた。
麻は、「う~ん、二宮さんがおもしろかったかなぁ」と答えていた。

「えっそうなん? やっぱりオレ、遠まわしに断られてますやんっ」
太郎は笑って受け流したが、ひそかにショックを受けていた。
(二宮か~そうか~……。アイツのことスッカリ忘れてたわ)
そう言えばコンパの後、二宮も「あん中やったら、松下って子が気になる」と言っていた。

太郎の「二宮コンプレックス」がまた顔を出した。
まさか10年前の「ちとせの理沙事件」を、まだ根に持ってるわけではない。
しかしあの頃から、本気でぶつかって後で傷つくのがイヤで、どちらかと言うと受け身な恋愛ばかりしてきたのも事実だ。

太郎は高校時代から、二宮を羨ましく思っていた。ヤツは野球が上手くて、おもしろくて、華があった。太郎が好きになる女の子は大体、二宮を好きになった。大好きだった野球部の1つ上のマネージャーなんかもそうだった。

あえて今、二宮と一緒にコンパに行くなどという傷口に塩を塗るようなことをしているのも、この「二宮コンプレックス」を乗り越えたいからかもしれない。
そろそろ本気で「二宮ではなくオレだけをちゃんと愛してくれる、かけがえのない一人」を見つけたいと思い始めたからだった。

麻とのメールのやりとりが楽しくて、今までに無い手応えを感じて始めていた矢先に、一方的に仕事のせいで断られ、二宮を気に入っていたとまで聞かされては仕方がない。
太郎は(メール楽しかったんオレだけか)と残念に思い、「第1印象いいもん同士の2人」に良かれと思って、麻にそんな気の無いメールを送ったのだった。


『沈まぬ携帯・・・20』 清水亜希

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2006年5月 2日 (火)

沈まぬ携帯・・・19

「お疲れさまでした」

麻は病院を出た。

(あ~まだ明るいなぁ~冬やったら真っ暗な時間やのに)

夕方6時。

この時間帯の病院は、夜の診察の患者や入院患者の見舞いの人達で結構出入りがある。

麻は婦長に頼まれた言付けを受付に伝えて、正面玄関から外に出た。

自転車置き場に向かっていると後ろから、

「麻ちゃん!」

と男の声で名前を呼ばれた。

ドキッとした。

そして何か分からないが、何かに期待しながら振り返った。

「わぉ~ナース姿もいいけど、私服も最高やね~」

と松葉杖をつきながら男が立っていた。

602号室に入院している『吉村和也』だった。

麻は何かに期待していた。

その何かとは・・・麻には分かっていた・・・もしか?・・・太郎君が・・・。

太郎は麻の勤めている病院は知らないし、仕事が看護師という事も知らないと思う。

でも、きつこが太郎に教えて・・・太郎が訪ねて来たのでは・・・と淡い期待。

麻は瞬時にしてそこまで考えていた。


吉村和也24歳。

バイク事故で骨折し入院している。麻が受け持っている患者の一人だ。

「麻ちゃ~ん、最近胸が痛いのよ~」

「えっ!それやったら内科の先生にすぐ診てもらわないと」

「先生には見れないのよ~これは恋わずらいなんよ~」

「はぁ?」

「お薬おくれ~麻ちゃんのメールアドレス~」

「なんですかそれ?」

外科の若い患者にはこういう人が多い。

足が折れてるだけでその他は元気なので、看護師に声をかけることを生きがいにしている。

「さぁ!江戸時代では想像もつかなかった赤外線通信という画期的なシステムでお薬を僕におくれ~」

「そんなんでは治りませんよ~」

「もう~麻ちゃんは西洋医学的な考えやな~僕は東洋医学的立場から・・・」

「もういいです。痛いまま居てください!」

和也の言葉を麻は笑いながら遮った。

「わぁ~こわ~、ええなぁ~やっぱり麻ちゃんに怒られな調子狂うわ~」

「えっ?」

「最近、元気ないやろ?どうしたんかなぁ?と思っててん」

「・・・・・」

「何か悩み事でもあるんかな?」

「・・・・・・・・」

「麻ちゃんも胸痛いんか?」

「痛い・・・かも・・」

麻は冗談で返そうとしたが、和也の言葉で本当に胸が痛くなったような気がした。

和也はタバコに火を点けながら、

「麻ちゃん、この病気は骨折ちゃうから、待ってても治らんよ。自分で動きださなあかんで」

「自分で?」

「そうや。待ってても痛みは消えへん。思い切りぶつかっていったら、あかんかっても上手くいっても気分ええやろ」

「うん。そうやね」

「俺みたいにガードレールにぶつかったらあかんで」

麻は笑った。

「笑っとき。笑ってたらええ事あるから。わからん事あったらいつでも聞きにきて、俺が東洋医学的・・・」

「それはいいです!」

「ほんならなぁ~」

と和也は歩き出した。

麻は決めた。

太郎にメールをしよと決めた。

歩き出した和也が立ち止まり、麻の方に振り返った。

「それから・・・」

「えっ?」

「ローソンにわらび餅って売ってる?」

「知りません!」


麻は自転車置き場に向かい歩きだした。

携帯を出し、仕事が終わってから毎日、日課のように見ていた、

「名探偵コナンが見たいです」

と書いていた保存メールを送信した。

   『沈まぬ携帯・・・19』 兵動 大樹

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2006年4月28日 (金)

沈まぬ携帯・・・18

(あれ?朝と全然雰囲気違うやん。・・・なんや。)
麻のことを少し気になりかけていただけに、太郎は軽い喪失感を覚えた。
(「私から連絡します。」やもんなぁ。しゃーないか・・・。)
散り始め舞っている桜は美しいけれど、散り積もり道の端に落ちている桜はもったいなくすぐに汚れてしまいかわいそうになる。
気を取り直すように勢いよく携帯をバッグにしまうとフィットネスクラブへ向かった。

肥後橋辺りの昼下がり。きつこは偶然、太郎と会った食堂に何度か行ってみたが会えない日がつづいていた。
麻に太郎との進展のほどを聞いてみたいが、麻の前の失恋を知っているだけにそういう話題にはきつこから触れにくい。

背の高い太郎を探すつもりはないのに、目が彼に似た容姿を追っている。
(・・・勤め先はこの辺じゃないのかな。)

「コンパで忙しいの?お茶ぐらい誘えよな。 松岡」と太郎にメールしてみた。
すぐに返信があり、3時間後にとある喫茶店で会う約束交わした。

遅れて来た太郎に「遅いなぁ。」ときつこ。
「ごめん。ごめん。・・・ひさしぶりやな。」ひとしきり世間話をしたあと、きつこはなるべく自然に聞いてみた。

「麻と連絡、取り合ってるの?」
「え?」と聞き返す太郎の目にドキッとする。
「映画に誘ったんやけどなぁ。 あの子忙しいんやろ。」
次の言葉を探す二人の間をタバコの煙だけが漂っていた・・・。

「沈まぬ携帯」・・・18 ティーアップ前田

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2006年4月25日 (火)

沈まぬ携帯・・・17

(メールの応酬しまくった、か……。)

麻はきつこからのメールを見た瞬間、自分でも驚くほどにガックリときた。
テンションが高いきつこにも、なんかちょっと、嫌悪感を抱いてしまった。

看護師として病院に勤め始めてまだ間もない。覚悟していた以上に、ナースの仕事は過酷だった。
仕事だけならまだしも、研修のときには味わうことのなかった、様々な現実が麻を悩ませていた。院内の複雑な人間関係、セクハラ、気難しい患者さん……。
覚えなければならないことが山ほどある中で、その全てが人の命に関わっているという緊張の連続。とにかく気力だけでくらいついている、といった毎日だった。

ところが今日は、早朝の太郎とのメールのやりとりのおかげで、1日の仕事がガゼン楽しかった。
点滴の台を運ぶときのカラカラという音でさえ、気分を盛り上げる演出となった。
「めがねザル」という、何のひねりもない陰のアダ名で呼ばれている激コワ婦長でさえも、今日はかわいいキャラクターに思えた。
互いに意識し合っている異性が存在することって、こんなに心地良かったっけ?と、久しぶりの新鮮な感覚を楽しんだ。


それが、太郎とメールで盛り上がったのは自分だけではなく、きつこもそうだったとわかり、1日の疲れが急に今、ドッと出た。
ノリのいいきつこと太郎なら、さぞ盛り上がったことだろう。

今日は早めの出勤だったため、今はまだ夕方5時過ぎである。
(そう言えば、今日ぐらいが花見のピークって、ニュースで言ってたな…)
麻は帰りの駅とは反対方向である、大阪城公園に向かって歩き出した。

夜桜の場所取りに急ぐサラリーマン、若いカップル、なんの集まりか知らないが、とにかく全員が大笑いしてる中年の集団……。皆、とっても幸せそうに見える。
麻はひとりで、見晴らしのいいベンチに腰を掛けた。

とりあえず、きつこに返事を打とうと思った。
しかし、何も思い浮かばない。
アレもちがう、コレもダメ。書いては消し、を繰り返していると、逆に麻の携帯にメールが届いた。

ドキっとした。太郎からであることは、直感でわかった。
メールはズバリ、太郎からだった。

『お疲れ~! 映画いつ行く?』
麻の気持ちも知らず、お気楽なモノだった。

さっきのきつこのメールがなければ、仕事終わりの桜の木の下でのこのシチュエーション、これ以上に盛り上がるタイミングは無かっただろう。でも、麻のテンションは下がってしまっていた。
あのショックを受けた裏切りから、まだ3ヶ月。しかも初恋、まだまだ痛い傷だった。

(きつこが太郎を気に入ってるなら、それでいい。昨日の今日だし、私も今なら全然大丈夫)
ただでさえハードな毎日なのに、今、あの元気なきつこと張り合うなんて、考えられない。

『ごめんなさい。私、看護師になりたてで、出勤時間も休みも不規則なんです。それに最近ちょっと疲れてて…。また落ち着いたら、私から連絡させてください』

ギュッと目をつぶって、送信した。


『沈まぬ携帯…17』  清水亜希 

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2006年4月21日 (金)

沈まぬ携帯・・・16

松下 麻。

昭和59年7月3日生まれ、蟹座の21歳。

血液型、O型。

職業、看護師。

簡単に麻を紹介したらこうなるのだろう。

麻は父親がいない。父は麻が幼い頃に『病気』で他界したと聞いた。

それからは、母親と母親方のおじいちゃんとおばあちゃんの4人で暮らしていた。

父親がいない寂しさよりも、母親とおじいちゃん、おばあちゃんが麻にたくさんの優しさを与えてくれた。

麻は寂しさより、父親がいたらどんな感じなんだろう?と時々考えるぐらいだった。

母親が仕事に行ってる間はおじいちゃんとおばあちゃんが麻の遊び相手だった。

麻は『おじいちゃん子』で、おじいちゃんの後をずーっとついてまわった。

「麻のお父さんはおじいちゃん」と麻は嬉しそうに近所の人に言いまわっていた。

そんな大好きなおじいちゃんが倒れたのは麻が13歳の時、自宅で倒れた。

おじいちゃんが病院に運ばれ、麻も病院に行った。

不安で泣きじゃくっている麻に優しく声をかけてくれた看護師さん。その時の優しさが麻を看護師の道に進めさせた。

おじいちゃんは『心不全』だった。

大好きだったおじいちゃんは居なくなったが、おじいちゃんの優しい気持ちを麻は忘れる事はなかった。

看護師を目指してる麻が初めて彼氏が出来たのが21才の秋だった。

相手はバンドマン。

友達の紹介だった。

性格的にはおとなしくて、見た目も派手ではない麻には不釣り合いのように見えたが、自分にない華やかな彼が好きだった。

麻は彼に尽くした。

わがまま言い放題、連絡もとれない日が何日も続く事もあった、お金も渡した事もある。

麻は「私はバンドの事はよくわからへんから・・いろいろあると思うし」と言って、彼の事を決して悪くは言わなかった。

そんな日々が続いたある日、麻は彼の浮気現場を見てしまう。

太郎と出会う3ヶ月前だった。

彼の部屋に行き、合鍵で部屋に入ったら、酔っ払ってる彼とスウェット姿の女がいちゃついていた。

麻が部屋に入った時、二人のいちゃつきが止まった。

麻が部屋に来たことで、シラけてしまったという雰囲気を感じる。

立ちすくんでいる麻に彼が一言・・・

「なんなん?」

と言ってきた。

何も言わなかった・・・言えなかった。

涙だけがポロポロ出てくる。

寂しいのか、悲しいのか、悔しいのか分からない。

胸が苦しい、顔が熱くなってきて、それを冷まそうとするようにどんどん涙が頬を伝っていく。

分からない。何が起こってるのか分からない。

いつも、自分が座っている所に見知らぬスウェット姿の女が座っている。

何も言わない麻に彼が・・・

「なんか言うたら?・・・お前暗いねん」

分からない・・・何を言われているか分からない・・・そう思いたい。

麻は、付き合いたての頃、彼氏に「かわいいなぁ」と言われたピンクのダウンジャケットの袖で涙を拭いて、彼と見知らぬ女におじぎをして、部屋を出た。

何故、おじぎをしたのかは分からない。

今まで、付き合ってくれてありがとうだったのか?

その事件から、麻は自分は『暗い』人間なんだと思った。

これからは明るくならないと・・・そう心に決めた。

だから、今朝の太郎から来るメールに自分なりに明るく返した。

太郎と出会う前、何人かの男の人とメールはしていた。

その時も頑張って自分なりに明るく返した。

でも、太郎への返信は、頑張るというより楽しかった。

その日、仕事が終わり病院を出て、メールをチェックした。

いつもはないドキドキした気分だった。

松岡きつこから来ていた。

題名が『キューティーハニー』

「昨日のあの人と、今日偶然会ったよ~。メールの応酬しまくった~おっさんにしては手ごわかった~」

麻はゆっくり携帯を閉じた。

今日は遠回りして帰りたい気分だった。

   『沈まぬ携帯・・・16 』   兵動 大樹

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2006年4月18日 (火)

沈まぬ携帯・・・15

(割と苦労した・・・。なんやろう?)考えながら歩いているといつも行く「ザ めしや」を通り過ぎ
「宮本むなし」に入っていた。
(「なにか」があるから、冷めたというか悟ってるというか影があるというか・・・)
麻のことに思いをめぐらしていると目の前に豚肉生生姜焼き定食がきた。
(しもた!昨日あんだけ油っぽいのん食うたのに。なんでこんなん頼んだんやろう。)
箸をつけるまえに麻のアドレスを登録した。
(でも、メールの内容はおもろいしなぁ。なんやろう?)
食後の一服をつけようとポケットをまさぐってると紙切れ。開いてみるとさっき会った松岡きつこのアドレス。
(あの子のも聞いてたんか。)
何気なく前をみると向かいにその松岡きつこが座ってる。上司らしき男性はこちらに背をむけ、どうやら二人で昼食をとっているようだ。
驚いてると男性がトイレにむかった。その隙に小さく手を振るきつこ。苦笑いで応えた太郎であったが携帯を
手に取りきつこへメールを送った。
「不倫か?(笑)  植木。」
あわてて携帯をテーブルの下で開きメールを読んだきつこが太郎を上目づかいで睨み、好戦的に微笑んだ。
メールを物凄い速さの指使いでうつきつこ。
太郎の携帯に新着メールの音。
(麻ちゃんかな?)
「しばくぞ。  松岡。」
目で笑いあう二人。テーブルにお互い携帯を置き1対1で撃ち合う早撃ち自慢のガンマンのようにしばらく
見詰め合っていた・・・。

「沈まぬ携帯」・・・15 ティーアップ前田

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2006年4月15日 (土)

沈まぬ携帯・・・14


(そう言えばオレ、映画なんて一茂主演の「ミスタールーキー」以来行ってないなぁ。麻ちゃんて、どんな映画が好きなんやろ。)
映画のタイトルをザッと見て、太郎が見たいと思ったのは、名探偵コナン、北斗の拳、ワンピースってとこだが、21歳の女の子がこんなのを見たがるとは思えない。

(よく女の子って、「初めてのデートなんて店なんかどこでもいいから、とりあえず男が全部チャッチャと決めて欲しい」とか言うけど、映画だけは彼女に決めてもらうか……)と思い、携帯をたたんだ瞬間に見えた時計を見て驚いた。
「お~遅刻するやん!」
慌てて、再びマウンテンバイクで会社へと急いだ。

川沿いの桜が満開だ。可憐で、はかないピンク色にフワフワした気分になり、思わず
「♪春の~風がぁ表通りを、通り~抜けてゆくのに~」と、
長渕初期の頃の歌をうたいかけて、ハッとして口をつぐんだ。
(アカン、アカン。浮かれてサビまで歌ってしもたら、またロクなことないわ……)


会社には、朝礼が始まるギリギリで何とか間に合った。
太郎の今日の日程は、ニューモデルの車のパンフレットを持っての営業だ。
太郎の担当先は、社用車として買ってくれている会社や、リース会社などである。
昨日と同じ服で恥ずかしかったのもあって、朝礼が終わるとそそくさと外へ出た。

商談と言っても、大半が世間話や、車に乗る上役たちの身の上話やグチの聞き役になることが多い。太郎は顧客にお上手をスラスラ言えるタイプではない。その分、相手に気持ちよく話してもらえるようにとだけは心がけているので、年配の客からも意外とウケが良かったりする。

午前中に、3社回った。新車はどこもまずまずの好感触だった。
どこかで昼ごはんを食べようと思い、肥後橋界隈の食堂を物色していたときだ。

OLのランチらしく財布だけを持って、こちらに1人で歩いてくる女の子に見覚えがある。
昨日のコンパで1番にぎやかだった、「松岡きつこ」という子だった。
きつこは明るくて愛嬌があり、見るからに健康そうな女の子だった。

「あ!! キューティーハニー歌ってた方ですよね? すごい偶然~! お仕事ですか?」
と彼女の方から嬉しそうに声をかけてきた。
二人は少し、立ち話をした。

「ところで、昨日来てた松下さんて、どんな子?」
「あ~! 麻がお気に入りだったんですね?」
「いや、ちょっと気になって……」
「今は看護師になりたてなんですけどね、麻はねぇ、頑張り屋さんですよー。私、小学校からの友達なんですけど、昔から割と、うん、苦労してきた子なんでね……」

何か気になる言い方だったので、詳しく聞こうと思った矢先、彼女の上司らしき男が近づいてきた。
きつこはあわてて、「あ、すいません。じゃあまた!」と、さっさと行ってしまった。


『沈まぬ携帯・・・14』 清水亜希

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2006年4月10日 (月)

沈まぬ携帯・・・13

「太郎ちゃん、あの溝にはまったん2回目やなぁ~」
昨日の事で謝りに行った『やまもっさん』のおばちゃんに言われて思い出した。

(そうや~2回目やったんやなぁ)

太郎は10年前に鈴木理沙と出会った日にスッポリと溝にはまった事を思い出した。

サンマリノ女学院の帰りだった。
二宮と別れ、一人自転車で家に向かっていた。
家に着く手前で(あ~あんな女の子が彼女になってくれたらな~)と思った瞬間、次に
目を開けたら自分の部屋だった。
その時も『レスキューやまもっさん』が助けてくれた。

「太郎ちゃ~ん~気つけや~2度ある事は3度あるやで~」

「そうやね。気つけるわ~」
太郎はそう言いながらマウンテンバイクで走りだした。

(服が昨日のままやけど・・・誰も気付かんやろ。このまま出勤しよ)

会社までは20分で着く。
出勤の途中、マウンテンバイクを何度も止めた。

麻にメールの返信を打つためだった。

太郎は麻にメールするだびに数をかぞえた。

「1・2・3・4・5・・・・」

麻の返信が何秒でかえってくるかを数えていた。

最短は18秒。

太郎の「パーマン2号知ってるの?」と聞いたメールの返事・・・

「ウッッキーーー!」だった。

朝のメールは麻からの「そろそろ仕事なんで、またメールします」で終わった。

(麻ちゃんて何の仕事してるんやろ??昨日、聞いたかな?覚えてないわ)

太郎は会社までの道のりで15回マウンテンバイクを止めた。
16回目、太郎は返事がない事を承知で麻にメールを入れた。

「今度、映画見に行きませんか?YESかNOかを15秒以内にメールして下さい
返事がなければ自動的にYESとなり僕と映画を見に行く事が決定します。」

送信してから太郎は「1・2・・・」とかぞえながらマウンテンバイクにまたがった。

「9・10・11・・・」12で携帯が鳴った。

麻からだった。

「YES。今から仕事開始!今日も元気にがんばろう!!」

太郎はそのまま携帯で映画情報を調べだした。

沈まぬ携帯・・・13 兵動 大樹。


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2006年4月 7日 (金)

『沈まぬ携帯』・・・・12

「玉を一つなくした。」・・・・・・。そんなん「「なさばな」のレベルと違うやん。でも自分で返したメールやし。どうしよう・・・。
「今転がしたサイコロは・・・今日の当たり目!!」「ライオン製品の詰め合わせ。」「<なさばな>を言えなくてごめんね。」麻。

「今度サイコロトークじゃないけど直接会って話したいな。」と太郎。「その時はコロゾーが出てくるかも・・・」「太郎君はこういう女イヤかな?」と麻。「あとパーマン2号のすとらっぷも知ってたよ。」

よう見ててんなぁ。面白い娘やな。パーマン2号もキイテたんや。そういや、彼女は皿を下げたり、追加の注文も率先してたなぁ。
「今度、休みの日があったらデートしようや。」
「え?いいんですか・・・。」「とりあえず携帯の番号教えて・・・。」
「ちゃんと連絡くれます?」「するよ。」 いい感じに2人はなりそうに思えた。でもコンパで隣り合わせた彼女のなにか影のある感じが少し気にかかる。

太郎君なら・・・私を受け止めてくれる気がする。

二人とも桜がせっかく咲いたのに雨、風で散ってしまいそうな心もとない嬉しさを感じ、甘い予感を失くしてしまいそうな気まぐれな春の光の中での直接言葉をかわさないお互いが交わすメール。

「太郎!太郎って!!」と母の怒鳴り声。「あんた朝ごはん食べや!!」現実に戻った太郎。部屋から出て「うん。ごめんな。食べるがな。」「食べ終わったらやまもっさんと吉井さん にお詫び言うとくんやで!!」「それは悪いことしたな。ちゃんと謝っとくわ。」

『沈まぬ携帯』・・・・・12ティーアップ前田

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2006年4月 5日 (水)

沈まぬ携帯・・・11

1通目の二宮からのメール。
『オレもお前も今日はお持ち帰りナシ!
でもオレは、王将のギョーザをお持ち帰り! プ~~ッ!』

……ただの酔っ払いである。
ただ、(やっぱりお前もギョーザやん)と
相方をちょっと愛しく思い、不覚にも少し笑ってしまった。

もう1通のメール。
アドレスを見て、やはりあの子、麻からだとわかった。
『こちらこそありがとうございました。
ごきげんよう。 松下』
 
……愛想のないメールだった。
「あン?」太郎はこの澄ました返信を見てイラっとし、自分が送ったメールを読み返してみた。
(オレが社交辞令にしろ『また皆で集まろう』って書いてんの無視やん。まぁ別にタイプじゃないからいいけどさ!)と思いながら、もう一度ゆっくり横になった。

タイプじゃないとは思いながらも、な~んかスッキリしない。
(ごきげんようってどないやねん。なんかオレがフラれたみたいになってるやん。気ぃ悪いからもう1回だけメールしたろ)

『ごきげんようて。さいころトークでもしたいの? 植木』

最近ひんぱんに参加しているコンパを通じて、太郎にはわかってきたことがある。
出会いなんて、恋なんて、相手に自分のことをもっと知りたい!と強く思わせた方が勝ちなのだ。
始めから自分をアピールしまくるのではなく、自分の魅力を小出しにして行くのがいいんじゃないの、と。お互いに。

さっきの麻からのメールにしても、あれがもし普通の決まりきった内容だったら、そこで終わってしまっていただろう。それが、あの若さで「ごきげんよう」なんて言葉を使ってきたことに、思わず反応してしまったのだ。

こんな早朝のメールにもかかわらず、意外にも麻からスグに返信がきた。

『今までで1番情けなかった話。なさばな~。はい、どうぞ』

(え、この人ってこんな人なん? え、ホンマにさいころトーク? まぁ俺の「なさばな」っちゃあアレやけど?)

『高校時代の野球部の練習で、急所に球が当たり、大事なタマを一つ失ったこと。
はい、次、そっちのなさばな』


『沈まぬ携帯・・・11』 清水亜希

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