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2006年3月28日 (火)

「沈まぬ携帯」・・・9

(あいつ<二宮>も気にしぃやな・・・・・。)

(あぁ、もうこんな時間か・・・・・。帰らな・・・・・・。)

レシートを手にレジへ。酔うと左睾丸を失ってるためか知らず知らずに右へ右へと行ってしまう。「・・・・・お愛想して。」

「えぇ!もう~。社長。まだ来たばっかりとちゃいますのん。」
「そのお愛想やあれへんがな。」
「すんません。」「ギョーザに生中2杯で・・・・・1200万円。」
「安いな。今サービス期間中か?」財布を取り出す太郎。「張り倒すぞ。」
「へ?」「・・・・そんなんいらんねん。」「5万円です。」「お前んとこは薄利多売やな。」「それだけがウチの取り柄だす。」「そんなん、いらんっちゅうねん。お前と遊んでる場合やないねん。」勘定を済ませ店の外に止めてあったジャガーのマウンテンバイクにまたがった。酔った頭に春の夜風が気持ちいい。
♪close your eyes 瞳を閉じればぁ~。長渕を長渕のように眉間にしわをよせ下あごをだすように歌い出す。
♪あなたが私に微笑みかけるよ。 調子にのってきた。
♪close your eyes~。
ガッシャ~ン!!道の溝に前輪がはまり頭から壁に激突。左側頭部を痛打。そこまでは記憶があるのだが目覚めてみると実家であった。

『沈まぬ携帯』・・・9ティーアップ前田。

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2006年3月25日 (土)

沈まぬ携帯・・・8

仲の良かった太郎と二宮が10年もの間疎遠になっていたのには、それなりの理由がある。

太郎は高校卒業後、野球はスッパリと辞め、関西の私立大学へ進学した。
一方レギュラーだった二宮は、野球で東北の大学へ進み、実際に距離ができたこともある。

しかし二人の間に目には見えない距離ができてしまったのは、やはりあのことだ。

高校最後の冬休み。
「理沙にアタック! ラブレター作戦」に敗れた太郎は、受験勉強に精を出していた。 
その日もなまった体をほぐそうと、夜の11時頃に国道沿いをランニングしていた時だった。
信号待ちのためその場で軽くストレッチをしながら、ふと車道に目をやった。するとそこには、見慣れた『ちとせ』という文字の書かれた、業務用の白い軽自動車があった。

てっきり『ちとせ』のおやっさんだと思い、少し近寄って中をのぞいてみると、運転していたのは理沙だった。
(理沙さん、念願の免許取れてんな。家の車で練習でもしてんのかな)と思ったのもつかの間、助手席に目をやると、そこにはなんと、二宮が乗っていた。

中の二人は会話に興じていたため、そばで立ち尽くす太郎には気づかなかったのだが、車が発進する直前、窓の方を見た二宮と一瞬目が合った。しかし車はそのまま、ゆっくりと走り去った。
――ニンニクBOφWY、玉砕の瞬間であった――。

太郎は今見た光景が信じられず、来た道をモーレツに逆走した。
それは人生で初めて味わう、「ジェラシー」という名のどうしようもなく醜い、激しくつきあげてくるような負の感情だった。


「俺は理沙さんをドラフト1位に指名してんけど、理沙さんはお前を逆指名しとってんな」
冬休みが終わり、学校で二宮に会った太郎は、スポーツマンらしくそう切り出した。
「ごめん…。急に電話がかかってきて、ドライブに付き合ってくれって言われて、つい行ってしもてん。でもほんまに1回ドライブしただけで、それ以上のことは何もないから……」
叱られた子供のように、二宮は本当に申し訳なさそうにうつむいていた。
(確かにコイツのこういう時の顔は、女にとったらかわいいのかもしらんな…)

「気にすんなって。ドラフトでも俺は高校生やから指名を待つしかないけど、理沙さんは大学生やから逆指名権があんねんから」
冬休み中考えた、太郎流の精一杯の強がりだった。

一方の二宮も、この時の太郎の歪んだ哀しい笑顔を、ずっと引きずることになった。
軽はずみな行為のせいで、純情で真っ直ぐな親友の心をへし折ってしまった自分を、責め続けた。


しかし10年という長い歳月は、二人のそんな気持ちを浄化してくれていた。
野球部OBの集まりで再会した二人は、一瞬にしてかつてのコンビネーションを取り戻していた。

硬派で少し真面目すぎるところのある太郎は、社交的でやんちゃな二宮といると、やはりワクワクする。ウマが合うのだ。
もしかしたら、昔のつぐないがしたいのかもしれない。「平成のコンパ王」二宮は、太郎を頻繁にコンパに誘い出していた。今日のコンパも、二宮主催のコンパだったのだ。


『沈まぬ携帯・・・8』 清水亜希

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2006年3月21日 (火)

沈まぬ携帯・・・7

鈴木理沙との出会いだった。
初恋の人との出会いでもあった。

鈴木理沙は学校の左向かいの『ちとせ』という食堂の娘だった。
22才である彼女は大阪の私立大学の4回生。
母校でもある『サンマリノ女学院』の文化祭は家が近いので、毎年顔を出していた。
理沙は車の免許を取るお金を稼ぐために父親に頼み、食堂でアルバイトをしていた。

男は年上の女性に憧れる時がある。
ちょうど、太郎ぐらいの年齢がその時期だろう。

「ど真ん中のストライクや!」

太郎は二宮の肩をバシバシと叩きながら、叫んだ。

その日から、太郎の『ちとせ』通いが始まった。

太郎は二宮を引き連れて、学校が終わると『ちとせ』に直行した。
家に帰るなら遠回りになる道も太郎は苦にならなかった。
走りだしたい気持ちだったが、二宮の前なので我慢した。

恋というものは男に勇気やパワーを与えてくれる。

「何がチェリーボーイやねん!俺は確かに1つないよ。
だから・・・アップルボーイかな??イチジクボーイ?
正月の鏡餅の上に置くミカンボーイ?どれにしよ?
なぁ~二宮~どれがええ?」

「ニンニクボーイでええんちゃう?」

「アホか!!」

「初めて見た時外人かと思った。瞳が碧かったもんな。
カラーコンタクトて・・・。」

『ちとせ』に行くまでの道のりはいつもテンションが高い
太郎だが『ちとせ』に着くとおとなしくなってしまう。
正確にいうと理沙の前ではだめになる。

大阪弁でいうと「あかんたれ」になってしまう。

通いだして2週間、理沙があと3日でバイトを辞めてしまう事を聞いた。

お金が貯まったので教習所に通うと言っていた。

太郎は理沙に想いを伝えたいと二宮に相談した。

そして太郎は・・・

「理沙にアタック!ラブレター作戦」を決行することを決めた!

太郎は想いをミッキーの便箋に書いた。


「理沙さんへ
僕は理沙さんが好きです!大好きです!!
僕のドラフト1位です(なんちゃって)
朝起きた時から理沙さんのことを想い、
寝るまで理沙さんのことを想っています。

僕は恋するピッチャーです。今まで理沙さんと出会うために、恋愛と
いうマウンドに上がらなかったのです。
そして、理沙さんとの恋愛という試合に登板する時が来たのです。
 
僕は理沙さんと出会えた、自分の人生に
感謝します!
おでんという食べ物を考えた人にも感謝します。

どうか、僕の恋愛魔球を受けてくれませんか?

お願いします!」

今、思うと恥ずかしさを通りこして
意味が分からない手紙だった。

勇気を振り絞り、理沙がバイトを辞める2日前に手紙を
渡した。

理沙がバイトを辞める前日に『ちとせ』に行った。

理沙は1日早くバイトを辞めていた。
太郎宛の手紙を残して。

「恋するピッチャーさんへ
あなたの魔球を上手に受けてくれる人は
私じゃないと思います。
もっと素敵な人があなたの魔球を受けて
くれると思います。
その日が来るまで、ブルペンで肩を温めて、
その人に最高の魔球を投げてあげて下さい」

「うまいこといいよんなぁ~」
二宮は感心していた。

「二宮、今まで付き合ってもらってありがとうなぁ」

「アタック作戦」は失敗に終わった。

そして月日は流れ・・・

自称『平成のコンパ王』となっていた二宮と再会したのは
10年後だった。

沈まぬ携帯・・・7 兵動大樹


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2006年3月20日 (月)

沈まぬ携帯・・・6

二宮と軽口をたたきながら校門をくぐると胸に何かが当たった、「ごめんなさい!!」少しハスキーな声。
太郎を見上げるその小作りな顔。アーモンド形の目。碧い大きな瞳。アーチ型の眉。高く通った鼻梁。小さいが肉厚な唇。ほど良く焼けた肌に冷たそうな顎のライン。上品に見える薄茶の髪。

時が止まってしまったようで彼女の容姿に太郎は言葉を失っている・・・・・・。落ち葉や雨もなく今の俺の目の前は全てクリアだ!!


「すいません・・・。」「クリーニング代とかじゃダメですよね。」と彼女。

足元にはおでんが落ちている。

「いや、俺もボーっとしとったから。」「このお金、払うわ。」

「そんなん、もらえません。」エルメスのハンカチで太郎についたおでんの染みをふき取っている。

「そんなん、せんでええよ。」「本当にごめんなさい。」「君、どこで働いてんの?」

この学校の左向かいの<ちとせ>って店です。


『沈まぬ携帯』・・・・6ティーアップ前田

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2006年3月17日 (金)

沈まぬ携帯・・・5

太郎と二宮は、坂の上の「サンマリノ女学院」を目指して歩いていた。
秋晴れのお手本のような、爽快な日和だった。
「カルーセル植木」と呼ばれて4ヶ月、何をしていてもファンキーな気持ちになどなれなかった太郎も、さすがに今日はいいイメージしか湧いてこなかった。

「お前、今日こそ彼女でも見つけて元気になれよ」
野球部きっての軟派男で、女に不自由しないタイプの二宮が上から目線で言った。
「でも俺、カルーセルやで」
「アホ、関係ないわ。早くチェリーボーイを卒業して、以前の自信を取り戻してくれよ」
「まぁ俺はチェリー(さくらんぼ)言われても、片方ないからチェリーボーイですらないねんけどな」
「お前、卑屈になったなぁ。 ほんならお前は何ボーイやねん」
「何ボーイて、BOφWYやん」
氷室京介のパフォーマンスをヤケクソのように真似しながら、太郎はそう答えた。
「なんでBOφWY?」
「真ん中の玉が一つ壊れてる」
「重症やなぁ。BOφWY見て、そんなこと思とったんや」
「お前に俺の気持ちはわからんよ」
「あ~あ、せっかく男前やのにもったいないよなぁ。お前のファンも多いのにな」

二宮は、太郎のスラリと細身でありながらもたくましく筋肉のついた肉体、そして日に焼けた精かんな顔を見上げながら、こう言った。
「絶対に高校卒業するまでに彼女作って、心も体もかる~せえよ」
「誰がカルーセルやねん」
「…………。
よし、決めた! とりあえず、今日初めに声かけて来た子をデートに誘え」
「なんでやねん。」
「いや、煮え切らん今のお前には、それくらいの荒療治が必要や」

二宮の提案もいかがなもんかと思ったが、太郎自身も現状を打破したい気持ちは強かったので、仕方なく彼に従うことにした。

色とりどりの花で飾られた正門をくぐった、その直後だった。


『沈まぬ携帯・・・5』 清水亜希

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2006年3月15日 (水)

沈まぬ携帯・・・4

『カルーセル植木』
これが今でも野球部で語りつがれている『球取らんと玉取った事件』があったあと太郎についたアダ名だ。
もちろんニューハーフ界のお姉さま『カルーセル麻紀』をもじったアダ名だった。
部員の皆も太郎をからかうためにアダ名をつけたわけではない。
太郎の気にしている事を笑いにかえて、太郎を勇気づけるという大阪独特の『文化』だった。
しかし、その事件以来、太郎はどうも女性が苦手になってしまった。
思春期の太郎は、当然女性を意識するようにはなるのだが、太郎の中には
(どうせ、俺は・・・一つないんや)
大人になれば、酒の席で『笑い話』にでもなりそうな事だが思春期の太郎には『許すことの出来ない現実』になっていた。

事件が起きてから4ヵ月ほど経った秋のある日、太郎は同じ野球部だった二宮浩二に女子校の文化祭に誘われた。

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2006年3月13日 (月)

沈まぬ携帯・・・3

10年前、最後のシーズンという思いもあり毎日の練習は自分の守備、バッティング、送球、ランニングフォームにも自分が納得いくまで繰り返しとなっていた。そんなストイックな姿勢を自分でイチローのようだと思い込んでいたし、そうする自分が好きであったが、他人には優しく後輩思いで下の者からも人気があった。補欠であったが。

忘れもしない7月1日。朝の練習が始まるというのに1年生のグランド整備が遅れてる。地面をならすところが鉄製の大きな熊手のような通称「トンボ」を1人がダラダラ引いている。(なにやっとんのじゃ!)「こぅらぁ!小林ぃ~!!」呼びつけるのではなく自ら小林に駆け寄った。

直立不動の小林は、植木が来ると帽子を取り90度に頭を下げ、「すいません!!」と怒鳴るように謝った。普通の先輩なら小林に制裁をくわえるのであるが「トンボは、こうやんねや。」と手本をみせた。(後輩思いやなぁ。俺って)「♪フゥ~フゥフ、フッフッフゥ」長渕剛の「とんぼ」を口ずさみながら、整備が終わってるところにもトンボを引いている。歌のサビに入りかけた「♪あ~あっしあわせの、とんぼよ~何処へっっっ!!!」

股間に激痛!!瞬間、後ろへ大きくのけぞり今で言う「イナバウアー」のような体制。

後でわかったことはチームメイトのサード橋本の打球が後ろから左睾丸に直撃。その結果、左睾丸は破裂し、失うことになってしまった。


『沈まぬ携帯・・・3』ティーアップ前田

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2006年3月12日 (日)

沈まぬ携帯・・・2

控えめな焦げ目が絶妙な、表面がパリッと焼けた餃子を見ただけでヨダレが出そうになった。太郎はがっついて一気に食べた。
高校時代は3年間、名門野球部でみっちり汗を流した太郎にとって、さっき食べた生春巻きやトムヤムクンではどうにも物足りなかったのだ。

日頃は輸入車ディーラーの営業という仕事上、いつも小ざっぱりと、洗練されたイメージを崩さないように努めている。でもこの店に来ると、飾らずにただの28のおっさんに戻れて妙にホッとする。

胃袋もようやく満たされたところで、女の子から貰ったメモをポケットから取り出した。
(松下 麻ちゃんか…。とりあえず、差し障りのないメールでも入れとくか)

何もかもが楽しい時期なのだろう、他の女の子たちが必要以上に大笑いしてはしゃぐ中、麻は歳の割に、何か悟ってでもいるかのような穏やかな表情が印象的な、おとなしい子だった。

華やかで連れて歩きたくなるような女が好きな太郎にとって、小柄で少し痩せすぎの麻には女性としての魅力は特に感じなかった。
このメールも、営業マンゆえの礼儀やサービス精神が太郎にそうさせただけだった。

『今日はどうもありがとう! 楽しかったです。また皆で集まろう。 植木太郎』

メールを送信したあと、何か眩しい光に導かれ、店のテレビ画面に目をやった。
「センバツ高校野球ハイライト番組」だった。
昼間の開会式の模様が流れていた。
2本の腕を水平になるまで振り上げて行進する姿が初々しいが、少し時代遅れな感じだ。
(あぁ春やなぁ。もうそんな時期か……)

最近でこそ思い出すことも少なくなったのだが、パッとしなかったコンパの後のむなしさも手伝ってか、太郎はまたあのことを思い出してしまった。
思わずテレビ画面から目をそらし、小さく頭を振ってうつむいた。
(あれから10年やぞ。俺はいつまで、高校最後のシーズンの出来事を引きずんねん……)

なぜだかわからないが、気づけばさっき送ったメールの返信を待っている自分がいた。


『沈まぬ携帯・・・2』 清水亜希

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2006年3月10日 (金)

沈まぬ携帯・・・1

「餃子と生中」

それだけ注文して、植木太郎はテレビの見える席に座った。

この店は、太郎が毎回、コンパの帰りに無理矢理上げたテンションをクールダウンしに立ち寄る中華料理屋だった。

「これ付けてたらコンパでウケるから!」と友達に貰った『パーマン2号』の携帯ストラップのマントをさすりながら、コンパで横に座った女の子に「おさるさん好きなんですか?」と聞かれた事を思いだしていた。

(あの子21歳やもんなぁ~パーマンなんか知らんわなぁ~28の俺でも薄っすらしか覚えてないもんなぁ~)

「ナ、マビールレッス」とカタコトの女の子が持ってきた生中を一気に半分ほど飲んだ。

(今日は調子悪かったなぁ~)

4対4のコンパ、一軒目の無国籍料理屋はそこそこの盛り上がり、二軒目のカラオケBOXで、ウケ狙いで入れた倖田來未の『キューティーハニー』をハイテンションで唄ってみたが、おっさんが無理してるという雰囲気になった。

(女の子2人トイレ行ったもんなぁ~)

席に戻り、恥ずかしさをごまかす為に、もっとテンションを上げながら、横に居た『さほど可愛くない』女の子にメールアドレスを聞いてみた。

すんなり教えてくれた・・・。

太郎は

(やっぱり愛想でメールした方がええんかなぁ~)と思っていると、

「ギョウジャオモチドウ?」という言葉と共に餃子が運ばれてきた。

『沈まぬ携帯・・・1』  兵動大樹

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