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2006年4月28日 (金)

沈まぬ携帯・・・18

(あれ?朝と全然雰囲気違うやん。・・・なんや。)
麻のことを少し気になりかけていただけに、太郎は軽い喪失感を覚えた。
(「私から連絡します。」やもんなぁ。しゃーないか・・・。)
散り始め舞っている桜は美しいけれど、散り積もり道の端に落ちている桜はもったいなくすぐに汚れてしまいかわいそうになる。
気を取り直すように勢いよく携帯をバッグにしまうとフィットネスクラブへ向かった。

肥後橋辺りの昼下がり。きつこは偶然、太郎と会った食堂に何度か行ってみたが会えない日がつづいていた。
麻に太郎との進展のほどを聞いてみたいが、麻の前の失恋を知っているだけにそういう話題にはきつこから触れにくい。

背の高い太郎を探すつもりはないのに、目が彼に似た容姿を追っている。
(・・・勤め先はこの辺じゃないのかな。)

「コンパで忙しいの?お茶ぐらい誘えよな。 松岡」と太郎にメールしてみた。
すぐに返信があり、3時間後にとある喫茶店で会う約束交わした。

遅れて来た太郎に「遅いなぁ。」ときつこ。
「ごめん。ごめん。・・・ひさしぶりやな。」ひとしきり世間話をしたあと、きつこはなるべく自然に聞いてみた。

「麻と連絡、取り合ってるの?」
「え?」と聞き返す太郎の目にドキッとする。
「映画に誘ったんやけどなぁ。 あの子忙しいんやろ。」
次の言葉を探す二人の間をタバコの煙だけが漂っていた・・・。

「沈まぬ携帯」・・・18 ティーアップ前田

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2006年4月25日 (火)

沈まぬ携帯・・・17

(メールの応酬しまくった、か……。)

麻はきつこからのメールを見た瞬間、自分でも驚くほどにガックリときた。
テンションが高いきつこにも、なんかちょっと、嫌悪感を抱いてしまった。

看護師として病院に勤め始めてまだ間もない。覚悟していた以上に、ナースの仕事は過酷だった。
仕事だけならまだしも、研修のときには味わうことのなかった、様々な現実が麻を悩ませていた。院内の複雑な人間関係、セクハラ、気難しい患者さん……。
覚えなければならないことが山ほどある中で、その全てが人の命に関わっているという緊張の連続。とにかく気力だけでくらいついている、といった毎日だった。

ところが今日は、早朝の太郎とのメールのやりとりのおかげで、1日の仕事がガゼン楽しかった。
点滴の台を運ぶときのカラカラという音でさえ、気分を盛り上げる演出となった。
「めがねザル」という、何のひねりもない陰のアダ名で呼ばれている激コワ婦長でさえも、今日はかわいいキャラクターに思えた。
互いに意識し合っている異性が存在することって、こんなに心地良かったっけ?と、久しぶりの新鮮な感覚を楽しんだ。


それが、太郎とメールで盛り上がったのは自分だけではなく、きつこもそうだったとわかり、1日の疲れが急に今、ドッと出た。
ノリのいいきつこと太郎なら、さぞ盛り上がったことだろう。

今日は早めの出勤だったため、今はまだ夕方5時過ぎである。
(そう言えば、今日ぐらいが花見のピークって、ニュースで言ってたな…)
麻は帰りの駅とは反対方向である、大阪城公園に向かって歩き出した。

夜桜の場所取りに急ぐサラリーマン、若いカップル、なんの集まりか知らないが、とにかく全員が大笑いしてる中年の集団……。皆、とっても幸せそうに見える。
麻はひとりで、見晴らしのいいベンチに腰を掛けた。

とりあえず、きつこに返事を打とうと思った。
しかし、何も思い浮かばない。
アレもちがう、コレもダメ。書いては消し、を繰り返していると、逆に麻の携帯にメールが届いた。

ドキっとした。太郎からであることは、直感でわかった。
メールはズバリ、太郎からだった。

『お疲れ~! 映画いつ行く?』
麻の気持ちも知らず、お気楽なモノだった。

さっきのきつこのメールがなければ、仕事終わりの桜の木の下でのこのシチュエーション、これ以上に盛り上がるタイミングは無かっただろう。でも、麻のテンションは下がってしまっていた。
あのショックを受けた裏切りから、まだ3ヶ月。しかも初恋、まだまだ痛い傷だった。

(きつこが太郎を気に入ってるなら、それでいい。昨日の今日だし、私も今なら全然大丈夫)
ただでさえハードな毎日なのに、今、あの元気なきつこと張り合うなんて、考えられない。

『ごめんなさい。私、看護師になりたてで、出勤時間も休みも不規則なんです。それに最近ちょっと疲れてて…。また落ち着いたら、私から連絡させてください』

ギュッと目をつぶって、送信した。


『沈まぬ携帯…17』  清水亜希 

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2006年4月21日 (金)

沈まぬ携帯・・・16

松下 麻。

昭和59年7月3日生まれ、蟹座の21歳。

血液型、O型。

職業、看護師。

簡単に麻を紹介したらこうなるのだろう。

麻は父親がいない。父は麻が幼い頃に『病気』で他界したと聞いた。

それからは、母親と母親方のおじいちゃんとおばあちゃんの4人で暮らしていた。

父親がいない寂しさよりも、母親とおじいちゃん、おばあちゃんが麻にたくさんの優しさを与えてくれた。

麻は寂しさより、父親がいたらどんな感じなんだろう?と時々考えるぐらいだった。

母親が仕事に行ってる間はおじいちゃんとおばあちゃんが麻の遊び相手だった。

麻は『おじいちゃん子』で、おじいちゃんの後をずーっとついてまわった。

「麻のお父さんはおじいちゃん」と麻は嬉しそうに近所の人に言いまわっていた。

そんな大好きなおじいちゃんが倒れたのは麻が13歳の時、自宅で倒れた。

おじいちゃんが病院に運ばれ、麻も病院に行った。

不安で泣きじゃくっている麻に優しく声をかけてくれた看護師さん。その時の優しさが麻を看護師の道に進めさせた。

おじいちゃんは『心不全』だった。

大好きだったおじいちゃんは居なくなったが、おじいちゃんの優しい気持ちを麻は忘れる事はなかった。

看護師を目指してる麻が初めて彼氏が出来たのが21才の秋だった。

相手はバンドマン。

友達の紹介だった。

性格的にはおとなしくて、見た目も派手ではない麻には不釣り合いのように見えたが、自分にない華やかな彼が好きだった。

麻は彼に尽くした。

わがまま言い放題、連絡もとれない日が何日も続く事もあった、お金も渡した事もある。

麻は「私はバンドの事はよくわからへんから・・いろいろあると思うし」と言って、彼の事を決して悪くは言わなかった。

そんな日々が続いたある日、麻は彼の浮気現場を見てしまう。

太郎と出会う3ヶ月前だった。

彼の部屋に行き、合鍵で部屋に入ったら、酔っ払ってる彼とスウェット姿の女がいちゃついていた。

麻が部屋に入った時、二人のいちゃつきが止まった。

麻が部屋に来たことで、シラけてしまったという雰囲気を感じる。

立ちすくんでいる麻に彼が一言・・・

「なんなん?」

と言ってきた。

何も言わなかった・・・言えなかった。

涙だけがポロポロ出てくる。

寂しいのか、悲しいのか、悔しいのか分からない。

胸が苦しい、顔が熱くなってきて、それを冷まそうとするようにどんどん涙が頬を伝っていく。

分からない。何が起こってるのか分からない。

いつも、自分が座っている所に見知らぬスウェット姿の女が座っている。

何も言わない麻に彼が・・・

「なんか言うたら?・・・お前暗いねん」

分からない・・・何を言われているか分からない・・・そう思いたい。

麻は、付き合いたての頃、彼氏に「かわいいなぁ」と言われたピンクのダウンジャケットの袖で涙を拭いて、彼と見知らぬ女におじぎをして、部屋を出た。

何故、おじぎをしたのかは分からない。

今まで、付き合ってくれてありがとうだったのか?

その事件から、麻は自分は『暗い』人間なんだと思った。

これからは明るくならないと・・・そう心に決めた。

だから、今朝の太郎から来るメールに自分なりに明るく返した。

太郎と出会う前、何人かの男の人とメールはしていた。

その時も頑張って自分なりに明るく返した。

でも、太郎への返信は、頑張るというより楽しかった。

その日、仕事が終わり病院を出て、メールをチェックした。

いつもはないドキドキした気分だった。

松岡きつこから来ていた。

題名が『キューティーハニー』

「昨日のあの人と、今日偶然会ったよ~。メールの応酬しまくった~おっさんにしては手ごわかった~」

麻はゆっくり携帯を閉じた。

今日は遠回りして帰りたい気分だった。

   『沈まぬ携帯・・・16 』   兵動 大樹

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2006年4月18日 (火)

沈まぬ携帯・・・15

(割と苦労した・・・。なんやろう?)考えながら歩いているといつも行く「ザ めしや」を通り過ぎ
「宮本むなし」に入っていた。
(「なにか」があるから、冷めたというか悟ってるというか影があるというか・・・)
麻のことに思いをめぐらしていると目の前に豚肉生生姜焼き定食がきた。
(しもた!昨日あんだけ油っぽいのん食うたのに。なんでこんなん頼んだんやろう。)
箸をつけるまえに麻のアドレスを登録した。
(でも、メールの内容はおもろいしなぁ。なんやろう?)
食後の一服をつけようとポケットをまさぐってると紙切れ。開いてみるとさっき会った松岡きつこのアドレス。
(あの子のも聞いてたんか。)
何気なく前をみると向かいにその松岡きつこが座ってる。上司らしき男性はこちらに背をむけ、どうやら二人で昼食をとっているようだ。
驚いてると男性がトイレにむかった。その隙に小さく手を振るきつこ。苦笑いで応えた太郎であったが携帯を
手に取りきつこへメールを送った。
「不倫か?(笑)  植木。」
あわてて携帯をテーブルの下で開きメールを読んだきつこが太郎を上目づかいで睨み、好戦的に微笑んだ。
メールを物凄い速さの指使いでうつきつこ。
太郎の携帯に新着メールの音。
(麻ちゃんかな?)
「しばくぞ。  松岡。」
目で笑いあう二人。テーブルにお互い携帯を置き1対1で撃ち合う早撃ち自慢のガンマンのようにしばらく
見詰め合っていた・・・。

「沈まぬ携帯」・・・15 ティーアップ前田

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2006年4月15日 (土)

沈まぬ携帯・・・14


(そう言えばオレ、映画なんて一茂主演の「ミスタールーキー」以来行ってないなぁ。麻ちゃんて、どんな映画が好きなんやろ。)
映画のタイトルをザッと見て、太郎が見たいと思ったのは、名探偵コナン、北斗の拳、ワンピースってとこだが、21歳の女の子がこんなのを見たがるとは思えない。

(よく女の子って、「初めてのデートなんて店なんかどこでもいいから、とりあえず男が全部チャッチャと決めて欲しい」とか言うけど、映画だけは彼女に決めてもらうか……)と思い、携帯をたたんだ瞬間に見えた時計を見て驚いた。
「お~遅刻するやん!」
慌てて、再びマウンテンバイクで会社へと急いだ。

川沿いの桜が満開だ。可憐で、はかないピンク色にフワフワした気分になり、思わず
「♪春の~風がぁ表通りを、通り~抜けてゆくのに~」と、
長渕初期の頃の歌をうたいかけて、ハッとして口をつぐんだ。
(アカン、アカン。浮かれてサビまで歌ってしもたら、またロクなことないわ……)


会社には、朝礼が始まるギリギリで何とか間に合った。
太郎の今日の日程は、ニューモデルの車のパンフレットを持っての営業だ。
太郎の担当先は、社用車として買ってくれている会社や、リース会社などである。
昨日と同じ服で恥ずかしかったのもあって、朝礼が終わるとそそくさと外へ出た。

商談と言っても、大半が世間話や、車に乗る上役たちの身の上話やグチの聞き役になることが多い。太郎は顧客にお上手をスラスラ言えるタイプではない。その分、相手に気持ちよく話してもらえるようにとだけは心がけているので、年配の客からも意外とウケが良かったりする。

午前中に、3社回った。新車はどこもまずまずの好感触だった。
どこかで昼ごはんを食べようと思い、肥後橋界隈の食堂を物色していたときだ。

OLのランチらしく財布だけを持って、こちらに1人で歩いてくる女の子に見覚えがある。
昨日のコンパで1番にぎやかだった、「松岡きつこ」という子だった。
きつこは明るくて愛嬌があり、見るからに健康そうな女の子だった。

「あ!! キューティーハニー歌ってた方ですよね? すごい偶然~! お仕事ですか?」
と彼女の方から嬉しそうに声をかけてきた。
二人は少し、立ち話をした。

「ところで、昨日来てた松下さんて、どんな子?」
「あ~! 麻がお気に入りだったんですね?」
「いや、ちょっと気になって……」
「今は看護師になりたてなんですけどね、麻はねぇ、頑張り屋さんですよー。私、小学校からの友達なんですけど、昔から割と、うん、苦労してきた子なんでね……」

何か気になる言い方だったので、詳しく聞こうと思った矢先、彼女の上司らしき男が近づいてきた。
きつこはあわてて、「あ、すいません。じゃあまた!」と、さっさと行ってしまった。


『沈まぬ携帯・・・14』 清水亜希

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2006年4月10日 (月)

沈まぬ携帯・・・13

「太郎ちゃん、あの溝にはまったん2回目やなぁ~」
昨日の事で謝りに行った『やまもっさん』のおばちゃんに言われて思い出した。

(そうや~2回目やったんやなぁ)

太郎は10年前に鈴木理沙と出会った日にスッポリと溝にはまった事を思い出した。

サンマリノ女学院の帰りだった。
二宮と別れ、一人自転車で家に向かっていた。
家に着く手前で(あ~あんな女の子が彼女になってくれたらな~)と思った瞬間、次に
目を開けたら自分の部屋だった。
その時も『レスキューやまもっさん』が助けてくれた。

「太郎ちゃ~ん~気つけや~2度ある事は3度あるやで~」

「そうやね。気つけるわ~」
太郎はそう言いながらマウンテンバイクで走りだした。

(服が昨日のままやけど・・・誰も気付かんやろ。このまま出勤しよ)

会社までは20分で着く。
出勤の途中、マウンテンバイクを何度も止めた。

麻にメールの返信を打つためだった。

太郎は麻にメールするだびに数をかぞえた。

「1・2・3・4・5・・・・」

麻の返信が何秒でかえってくるかを数えていた。

最短は18秒。

太郎の「パーマン2号知ってるの?」と聞いたメールの返事・・・

「ウッッキーーー!」だった。

朝のメールは麻からの「そろそろ仕事なんで、またメールします」で終わった。

(麻ちゃんて何の仕事してるんやろ??昨日、聞いたかな?覚えてないわ)

太郎は会社までの道のりで15回マウンテンバイクを止めた。
16回目、太郎は返事がない事を承知で麻にメールを入れた。

「今度、映画見に行きませんか?YESかNOかを15秒以内にメールして下さい
返事がなければ自動的にYESとなり僕と映画を見に行く事が決定します。」

送信してから太郎は「1・2・・・」とかぞえながらマウンテンバイクにまたがった。

「9・10・11・・・」12で携帯が鳴った。

麻からだった。

「YES。今から仕事開始!今日も元気にがんばろう!!」

太郎はそのまま携帯で映画情報を調べだした。

沈まぬ携帯・・・13 兵動 大樹。


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2006年4月 7日 (金)

『沈まぬ携帯』・・・・12

「玉を一つなくした。」・・・・・・。そんなん「「なさばな」のレベルと違うやん。でも自分で返したメールやし。どうしよう・・・。
「今転がしたサイコロは・・・今日の当たり目!!」「ライオン製品の詰め合わせ。」「<なさばな>を言えなくてごめんね。」麻。

「今度サイコロトークじゃないけど直接会って話したいな。」と太郎。「その時はコロゾーが出てくるかも・・・」「太郎君はこういう女イヤかな?」と麻。「あとパーマン2号のすとらっぷも知ってたよ。」

よう見ててんなぁ。面白い娘やな。パーマン2号もキイテたんや。そういや、彼女は皿を下げたり、追加の注文も率先してたなぁ。
「今度、休みの日があったらデートしようや。」
「え?いいんですか・・・。」「とりあえず携帯の番号教えて・・・。」
「ちゃんと連絡くれます?」「するよ。」 いい感じに2人はなりそうに思えた。でもコンパで隣り合わせた彼女のなにか影のある感じが少し気にかかる。

太郎君なら・・・私を受け止めてくれる気がする。

二人とも桜がせっかく咲いたのに雨、風で散ってしまいそうな心もとない嬉しさを感じ、甘い予感を失くしてしまいそうな気まぐれな春の光の中での直接言葉をかわさないお互いが交わすメール。

「太郎!太郎って!!」と母の怒鳴り声。「あんた朝ごはん食べや!!」現実に戻った太郎。部屋から出て「うん。ごめんな。食べるがな。」「食べ終わったらやまもっさんと吉井さん にお詫び言うとくんやで!!」「それは悪いことしたな。ちゃんと謝っとくわ。」

『沈まぬ携帯』・・・・・12ティーアップ前田

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2006年4月 5日 (水)

沈まぬ携帯・・・11

1通目の二宮からのメール。
『オレもお前も今日はお持ち帰りナシ!
でもオレは、王将のギョーザをお持ち帰り! プ~~ッ!』

……ただの酔っ払いである。
ただ、(やっぱりお前もギョーザやん)と
相方をちょっと愛しく思い、不覚にも少し笑ってしまった。

もう1通のメール。
アドレスを見て、やはりあの子、麻からだとわかった。
『こちらこそありがとうございました。
ごきげんよう。 松下』
 
……愛想のないメールだった。
「あン?」太郎はこの澄ました返信を見てイラっとし、自分が送ったメールを読み返してみた。
(オレが社交辞令にしろ『また皆で集まろう』って書いてんの無視やん。まぁ別にタイプじゃないからいいけどさ!)と思いながら、もう一度ゆっくり横になった。

タイプじゃないとは思いながらも、な~んかスッキリしない。
(ごきげんようってどないやねん。なんかオレがフラれたみたいになってるやん。気ぃ悪いからもう1回だけメールしたろ)

『ごきげんようて。さいころトークでもしたいの? 植木』

最近ひんぱんに参加しているコンパを通じて、太郎にはわかってきたことがある。
出会いなんて、恋なんて、相手に自分のことをもっと知りたい!と強く思わせた方が勝ちなのだ。
始めから自分をアピールしまくるのではなく、自分の魅力を小出しにして行くのがいいんじゃないの、と。お互いに。

さっきの麻からのメールにしても、あれがもし普通の決まりきった内容だったら、そこで終わってしまっていただろう。それが、あの若さで「ごきげんよう」なんて言葉を使ってきたことに、思わず反応してしまったのだ。

こんな早朝のメールにもかかわらず、意外にも麻からスグに返信がきた。

『今までで1番情けなかった話。なさばな~。はい、どうぞ』

(え、この人ってこんな人なん? え、ホンマにさいころトーク? まぁ俺の「なさばな」っちゃあアレやけど?)

『高校時代の野球部の練習で、急所に球が当たり、大事なタマを一つ失ったこと。
はい、次、そっちのなさばな』


『沈まぬ携帯・・・11』 清水亜希

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2006年4月 1日 (土)

沈まぬ携帯・・・10

「頭痛いわ~~」と言いながら太郎は『ムックリ』といった感じでベットからでた。
閉まりきっていないカーテンの隙間からは、太陽の光が突き刺さるように太郎を照らしていた。
(んん~~昨日は何があったんや?)
太郎は時計を見た、朝の6時だった。
タバコに火を点け、ベットに腰かけて、まるで竜が炎を吐くように煙を吐いた。
(何で実家におるんやろ?)
どうしても昨日の、自転車に乗って、溝にはまり『即席スタントマン』に
なってからが思い出せない。
しかし、その答えはすぐに出た。
いきなり部屋のドアが開いた。
その瞬間、すごい勢いでオカンが入ってきた。
「あんた!!昨日はなんやの!!!夜中に大きな音たてて!!」
「なんやねん?なんの話やねん」
「あれは何時や!!玄関の方でドカーーン!ガチャーンってトラックが突っ込んできたと思ったわ」
「実家の溝にはまったんか」と太郎は頭を押さえながら言った。
「近所の人、全員起きてきはったわ!吉井さんもやまもっさんもビックリしてはったわ!」
「そうなん?」
「そうなんちゃうわ!!!みんなに手伝ってもらってここまで運んだんや!恥ずかしい!
あんた、溝にきれーーに体まではまってたんやで!!」
「わかったから!!頭痛いねん!!もう下に行っとけや!!」
「何が頭痛いねんや!!飲みすぎや!!飲みすぎシール貼ったるわ!」
と言いながら、オカンが太郎の左のほっぺたをペシペシと叩いてきた。
太郎はオカンのこのうざいノリに勝てるうざいノリはこの世にはないと思った。
「そんなんいらんねん!もう~下に行っとけや!!」と無理矢理オカンを部屋から追い出した。
太郎はゆっくりと思い出してきた。
昨日、店から出て自転車に乗ってる時、野球をしていた頃がやたら懐かしくなり、実家にグローブ
を取りにいき、それを一人暮らしの部屋に持って帰り、グローブを肴に酒を飲もうと考えていた。
実家に近づき、機嫌よく長渕を歌いだし、調子に乗った時に、携帯が鳴った。それを片手で取ろうと
した時、溝にはまったのである。
(電話鳴ったんや。誰や?)
太郎は上着のポケットから携帯を出して画面を見た。
メールだった。
2通来ていた。1通は二宮、もう1通はアドレスが表示されていた。
(あの子かな?)と太郎は思った。
2通とも来ていた時刻は0時48分。
太郎が溝にはまった時間も判明した。

『沈まぬ携帯・・・10』兵動 大樹


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