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2006年5月24日 (水)

沈まぬ携帯・・・24

「あっ・・・二宮君のこと・・・?」
その切りかえしを少し不思議に思った麻は「ううん。違う。あの人からはメールとかないもん。なんで?」
「だってコンパ終わりでちょっとそんなこと言うてたから・・・。」
きつこはなんとなく予想できた答えを聞きたくなかったが「・・・ほな、誰のことなんよ。」

「植木君のことなんやけど・・・。」
太郎と麻のいきさつをきつこは全て知っている。そして煮え切らない間柄も。こういう会話になるのを予想していた
きつこは昨夜思い悩み、答えがでないまま、今、この場にいる。

「なぁ。きつこ。あんた、まだ植木君とメールのやり取りしてんの?」
「えっ?」
太郎のことを好きになりかけているきつこは、麻との友情も失いたくない。

言葉を選ぶより正直に話そうと決めたきつこ。
「メル友かな・・・。たまにご飯食べに行くけど。」つとめて明るく「でも、向こうの奢りやで。」

「・・・メル友以上やん。」
「あんたと植木君のことが心配で、そこから・・・。」順を追って説明するきつこ。
「でも、それって当事者の私が入ってないやん。2人で会う口実ちゃうの?」
「結果はそうなってるかもしれへんけど・・・ちがうよ麻。」

太郎から部屋に誘われたことだけは言わずにいた。

窓の外を見る麻。 うつむき加減のきつこ。 しばらくの沈黙。

麻はきつこの方も見ずに「なんで・・・?もっと前に言うてくれへんかったんよ・・・。」
「・・・・・・。」

にじんでくる涙を必死にこらえる麻。
「私ら・・・友達ちゃうのん・・・。」と麻は声がつまってしまうのが口惜しい。

「ちょっと考えたいから。」席を立つ麻。
「ちょっと・・・麻・・・。」立ち去る麻の背に声をかけれない。

一人テーブルでうつむき涙が自然に。
(麻・・・。なぁ・・・。麻・・・。私はあんたのことが心配で・・・。あんたの気持ちを確かめたくて・・・。)
(・・・太郎君の部屋に行かへんかってんで・・・。)

「沈まぬ携帯24」・・・ティーアップ前田

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2006年5月20日 (土)

沈まぬ携帯・・・23

麻ときつこは、翌日の夕方、地元のファミレスで会う約束をした。

「ごめん、お待たせ~!」
麻が少し遅れて店に入ってきた。
「いいよ、いいよ。土日も仕事って大変やなぁ。顔がお疲れやで」
「うそ、やっぱり?」

とりあえず二人は、迷うことなくお互いが「いつものセット」を注文した。
二人にとってこの店は、子供の頃からよく来たとても落ち着ける場所だった。

「で、どうしたん? なんかあった?」
きつこから切り出した。
「うん。実はさぁ、昨日うちの病院に、誰が入院してきたと思う?」
「え、知らん。誰?」
「ハヤト」
「ウソ~~ッ!! まさか、アンタの元カレのバンドマンの、あのハヤト!?」
「うん……」
「ビジュアル系バンドのヴォーカルのくせに、色白で小太りのあのハヤトか!?」
「そう、もうサイアク。ライブ中にステージから転落して、両足骨折してんて」
「うわ、ダッサー。太ってんのにイキってるからそんなことなんねん!
大体、ヴォーカルがぽっちゃりしてるって、どういうことやねん!って前から言いたかってん!」
ナース仲間にはいないタイプの、勢いのあるきつこの毒舌を聞いて、少し気が楽になった。

「ハヤト見た時、アタシほんまに動揺して、固まってしまってん」
「そらそうやわ。だって、アレからまだそんなに経ってないもん」
「うん。しかもさぁ、周りに誰もいなくなった時、アタシに言ったヒドいことなんか忘れたみたいに、『お前とヨリ戻したいと思っててん』とか言ってきてん」
「くっそ、あのデブー。あー腹立つ!!
ってもしかして麻、ヨリ戻すとか言うんちゃうやんね??」
「そんなわけないやん。今まで何回もあの日の夢見てうなされたし、顔見ただけで吐きそうになったのに」
「そうやんな。で、バシッと断ったんやろ?」
「それがさぁ、あんな弱ってる姿見てしまったら、ちょっとかわいそうとか思ってしまって……」
麻がそう言った瞬間、きつこの眉毛がピクっとなった。

「はぁ? 何言ってんの? あんなヤツに同情なんかせんでいいわ。ほんまアンタってお人よし!」
なんできつこが急に怒ったのか、麻にはわからなかった。
「そんな言い方しなくてもいいやん。なんでそんな怒ってんの?」
「アンタがあのデブにあんなヒドい言い方されたって聞いた時、アタシまでがどんだけ悔しかったかわかってんの? もう、しっかりしてよ」
きつこの目から、涙がこぼれた。

「ごめん……、明日ちゃんと断るから。ありがとう」
そして、麻も泣いた。
「それでもしつこく何か言って来たら、私があのデブにバシッと言いに行ったるから任しとき!」
「うん! それにしてもさっきからデブ・デブって、人の元カレつかまえて……。別にいいけど」
二人は今日初めて、声をあげて笑った。

食べて・泣いて・笑ってスッキリした二人に、タイミング良くデザートのケーキが運ばれてきた。
麻は一口食べて、今日ホントは一番聞きたかったことを切り出した。

「あのさぁ、この前のコンパの人たちのことやけど……」
嬉しそうにケーキを食べていたきつこの表情が変わったのが、麻にも見て取れた。
二人の間に、重苦しい空気が流れた。


『沈まぬ携帯…23』 清水亜希

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2006年5月16日 (火)

沈まぬ携帯・・・22

「なんてね~~~~」と太郎はすぐにおどけてみた。

自分から部屋で飲みなおさへんかと言っておきながら、太郎はとぼけてみせた。

本心で言った。

勇気を振り絞って言った。


『部屋で飲みなおさへんか?』

それをきつこに言った時、きつこの顔がビックリしたような、ドキッとしたような、そんな表情になった。

その表情を見たとき太郎は怖くなった。

きつこの返事を聞くのが怖くなった。

だから、『冗談』にした。

「なんやそれ?」

ときつこは正面に立つ太郎から目線をそらして呟いた。

「え?」と太郎は聞き返した。

「なんやそれ?」と聞こえていたのに太郎は聞き返した。

「なんやそれ!」と大声できつこは太郎にもう一度言った。

「どないしてん?」きつこの迫力に少しビックリしながら太郎は聞き返した。

「行ってもええよ」と少し上を見ながらきつこは言った。

「ほんま???」今度は太郎が大声になった。

「うるさいなぁ~大きい声で~」ときつこは耳をふさぎ笑いながら言った。

「姉御~今日は飲み明かしますか!!!」と太郎は腰をかがめ、おひかえなすってポーズをとった。

「おう!明日は休みやし朝まで麻の話でも聞いたるわ~」

「なんで麻の話やねん、スキマスイッチのアフロの方について語ろうぜ」

正直、きつこの『麻』という言葉を聞いた時、太郎の心は染みた。

何かに染みた。

染みた事をきつこに悟られないように、太郎は笑顔を崩さなかった。


飲んでいた梅田から太郎の家は私鉄の急行で15分の所だった。

駅を出て大きな道路沿いを歩いて太郎の家に向かった。

途中で酒とつまみを買うためにコンビニに入った。

「やっぱり焼酎は下町のナポレオン『いいちこ』やろ」

「私は芋焼酎がええねん。それ麦やろ?」

「贅沢な女やなぁ」

「後、氷と水やな」

「私、緑茶で割るから2、3本買ってて~」

「お前はセレブやな~叶姉妹顔負けやでぇ」

キャッキャ、キャッキャ言いながら次々とカゴに品物を入れていく。

どう見ても、お泊りでテンションが上がっているカップルに見える。

カゴに満タンになった品物をレジに持って行く。

「支払いお願い致します~外で待ってます~」ときつこはハシャギながら店を出た。

「おい!ちょっと~」と叫ぶ太郎。

テンションが低そうな店員にジロっと見られ太郎は咳払いをしてうつむいた。

店を出て「お前、これ重たいぞ~」と後ろを向いてるきつこに行った。

その声で振り向いたきつこは何かを我慢している顔で「やっぱり帰るわ」と太郎に言った。

「えっ、なんでやねん?どないしてん?」

「帰るねん」

「何があったんや?」

「何にもないよ。帰る。ごめん」

と言いながらきつこは道路沿いに立った。

「どないしてんって」

太郎の言葉には振り返らずにきつこは手を上げた。

夜中近い時間だが、大きい道路はまだ交通量も多くすぐにタクシーが停まった。

「またメールする」とだけ言ってきつこはタクシーに乗った。

何が起こったのか太郎は理解出来ない。

タクシーが発車する時に後部座席の窓が開いた。

きつこが「こっちからメールするから」と言ったと同時にタクシーは走りだした。

太郎はコンビニの前で立ち尽くした。

「俺、緑茶飲まへんで」


きつこはタクシーの窓から景色を見るでもなく、ただ目線だけを外に向けていた。


「ふ~」

とため息をついて、カバンから携帯を出してコンビニから出てくる太郎を待っている時に来たメールを読み返した。


「夜遅くにごめんな。
 明日は休みかな?
 相談があるねんけど、
 明日会える? 麻 」

   『沈まぬ携帯・・・22』  兵動 大樹

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2006年5月 9日 (火)

沈まぬ携帯・・・21

きつことお茶したその日から、なんとなく2人で会う日ができた。約束をするというのでもなく「今日、何してんの?用事なかったら仕事終わりでメシでもどうかな?」とメールを送る太郎。「いいけど、当然奢りやろな?」と返信するきつこ。

「お前、その言葉使いなんとかならんか?」
「お嫌いですか?」
「お好きです。」
そんなメールのやりとりの後に会うと2人とも二宮、麻の話をなんとなく避けていた。

2人だけで何度目かの夕食のある日。2軒目できつこはいつもより酔っていた。
「太郎君てなぁ。ほんまは麻のことが気になってんのとちゃうん?」
「そんなことないよ。」
「そうかなぁ。あの子、いい子やねんで。」「あっ、もうこんな時間。帰らな。」ときつこ。
「・・・そうやな。」

お勘定をする太郎を店の外で待っていた。小雨が降ったのか路面が濡れている。小さな水溜りにネオンや街灯が鈍く映っている。
知らず知らずのうちにうつむいてきつこは太郎を待っていた。
「ご馳走様でした。」「ええよ。」

駅に近づくにつれて人が多くなってきた。言葉を交わさない2人。
(何故、寂しいんだろう・・・。)

立ち止まりきつこの目を見つめる太郎。
「・・・なぁ。俺の部屋で飲みなおさへんか。」


「沈まぬ携帯」・・・ティーアップ前田。


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2006年5月 5日 (金)

沈まぬ携帯・・・20

メールを送信した麻は、自転車に乗って病院を出た。
なんとも言えず、すがすがしい気分だった。
ウジウジしてた自分から、やっと一歩外へ踏み出せた気がした。

(吉村さんの言うとおりやわ。自分の正直な気持ちを伝えるって気持ちいい~)

いつもはそんなスタイルは好まないのだが、今日はカバンを斜めがけにしてアクティブな感じで自転車をこいだ。カバンに入っている携帯の、太郎からの返信のバイブにスグに気づきたいからだった。

「あ、鳴った!」
あわてて自転車を止め、カバンの中の携帯を取り出した。
そこには無情にも、さっきから5分と経っていない時計が大きく表示されてるだけだった。

(あ、レザーのカバンがきしんだだけやったんやわ……)
麻は照れながら携帯を再びカバンにしまい、またこぎ出した。
そして、冷静な麻らしくもなく、その同じ失敗を何回か繰り返した。

今度こそカバンをとおして、今までのとは違うしっかりとした振動を右の腰に感じた。
(う、来ちゃった。はぁ~見るのこわーい)
楽しみ6割、不安4割で携帯を開いた。
送信は、やはり太郎からだった。

『仕事忙しかったら無理せんでいいよ。仕事頑張ってな。
追伸:二宮って覚えてる? アイツが君のこと気に入ってたで!』


きつこに、悪意なんてなかった。
太郎とお茶した、あの日のことだ―――――。

太郎から、「麻を映画に誘ったけど、忙しいから断られた」と聞かされた。
「うん。あの子、仕事ほんまに大変みたい。
コンパの日も、乗り気じゃない麻を強引に連れ出したのは私やし」
(せっかく会えたのに麻の話か)って少しふてくされながらも、きつこはありのままそう答えた。

「ふうん、ほんまに大変やねんな。オレ、やんわり断られてんのかと思ったわ」
太郎は少し嬉しそうな顔をして、持っていたタバコの灰を灰皿に落とした。
きつこは、太郎のその均整のとれた指に見とれていた。

「あっでもね、コンパが終わった日の帰りは、麻は二宮さんがいいって言ってたような気がする…」
きつこは申し訳なさそうに、しかし目は太郎の表情を鋭く監視しながら、そう言った。
実際、そうだったのだ。コンパの帰り、きつこは麻に「ねぇ、誰か気に入った人いたぁ?」と聞いた。
麻は、「う~ん、二宮さんがおもしろかったかなぁ」と答えていた。

「えっそうなん? やっぱりオレ、遠まわしに断られてますやんっ」
太郎は笑って受け流したが、ひそかにショックを受けていた。
(二宮か~そうか~……。アイツのことスッカリ忘れてたわ)
そう言えばコンパの後、二宮も「あん中やったら、松下って子が気になる」と言っていた。

太郎の「二宮コンプレックス」がまた顔を出した。
まさか10年前の「ちとせの理沙事件」を、まだ根に持ってるわけではない。
しかしあの頃から、本気でぶつかって後で傷つくのがイヤで、どちらかと言うと受け身な恋愛ばかりしてきたのも事実だ。

太郎は高校時代から、二宮を羨ましく思っていた。ヤツは野球が上手くて、おもしろくて、華があった。太郎が好きになる女の子は大体、二宮を好きになった。大好きだった野球部の1つ上のマネージャーなんかもそうだった。

あえて今、二宮と一緒にコンパに行くなどという傷口に塩を塗るようなことをしているのも、この「二宮コンプレックス」を乗り越えたいからかもしれない。
そろそろ本気で「二宮ではなくオレだけをちゃんと愛してくれる、かけがえのない一人」を見つけたいと思い始めたからだった。

麻とのメールのやりとりが楽しくて、今までに無い手応えを感じて始めていた矢先に、一方的に仕事のせいで断られ、二宮を気に入っていたとまで聞かされては仕方がない。
太郎は(メール楽しかったんオレだけか)と残念に思い、「第1印象いいもん同士の2人」に良かれと思って、麻にそんな気の無いメールを送ったのだった。


『沈まぬ携帯・・・20』 清水亜希

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2006年5月 2日 (火)

沈まぬ携帯・・・19

「お疲れさまでした」

麻は病院を出た。

(あ~まだ明るいなぁ~冬やったら真っ暗な時間やのに)

夕方6時。

この時間帯の病院は、夜の診察の患者や入院患者の見舞いの人達で結構出入りがある。

麻は婦長に頼まれた言付けを受付に伝えて、正面玄関から外に出た。

自転車置き場に向かっていると後ろから、

「麻ちゃん!」

と男の声で名前を呼ばれた。

ドキッとした。

そして何か分からないが、何かに期待しながら振り返った。

「わぉ~ナース姿もいいけど、私服も最高やね~」

と松葉杖をつきながら男が立っていた。

602号室に入院している『吉村和也』だった。

麻は何かに期待していた。

その何かとは・・・麻には分かっていた・・・もしか?・・・太郎君が・・・。

太郎は麻の勤めている病院は知らないし、仕事が看護師という事も知らないと思う。

でも、きつこが太郎に教えて・・・太郎が訪ねて来たのでは・・・と淡い期待。

麻は瞬時にしてそこまで考えていた。


吉村和也24歳。

バイク事故で骨折し入院している。麻が受け持っている患者の一人だ。

「麻ちゃ~ん、最近胸が痛いのよ~」

「えっ!それやったら内科の先生にすぐ診てもらわないと」

「先生には見れないのよ~これは恋わずらいなんよ~」

「はぁ?」

「お薬おくれ~麻ちゃんのメールアドレス~」

「なんですかそれ?」

外科の若い患者にはこういう人が多い。

足が折れてるだけでその他は元気なので、看護師に声をかけることを生きがいにしている。

「さぁ!江戸時代では想像もつかなかった赤外線通信という画期的なシステムでお薬を僕におくれ~」

「そんなんでは治りませんよ~」

「もう~麻ちゃんは西洋医学的な考えやな~僕は東洋医学的立場から・・・」

「もういいです。痛いまま居てください!」

和也の言葉を麻は笑いながら遮った。

「わぁ~こわ~、ええなぁ~やっぱり麻ちゃんに怒られな調子狂うわ~」

「えっ?」

「最近、元気ないやろ?どうしたんかなぁ?と思っててん」

「・・・・・」

「何か悩み事でもあるんかな?」

「・・・・・・・・」

「麻ちゃんも胸痛いんか?」

「痛い・・・かも・・」

麻は冗談で返そうとしたが、和也の言葉で本当に胸が痛くなったような気がした。

和也はタバコに火を点けながら、

「麻ちゃん、この病気は骨折ちゃうから、待ってても治らんよ。自分で動きださなあかんで」

「自分で?」

「そうや。待ってても痛みは消えへん。思い切りぶつかっていったら、あかんかっても上手くいっても気分ええやろ」

「うん。そうやね」

「俺みたいにガードレールにぶつかったらあかんで」

麻は笑った。

「笑っとき。笑ってたらええ事あるから。わからん事あったらいつでも聞きにきて、俺が東洋医学的・・・」

「それはいいです!」

「ほんならなぁ~」

と和也は歩き出した。

麻は決めた。

太郎にメールをしよと決めた。

歩き出した和也が立ち止まり、麻の方に振り返った。

「それから・・・」

「えっ?」

「ローソンにわらび餅って売ってる?」

「知りません!」


麻は自転車置き場に向かい歩きだした。

携帯を出し、仕事が終わってから毎日、日課のように見ていた、

「名探偵コナンが見たいです」

と書いていた保存メールを送信した。

   『沈まぬ携帯・・・19』 兵動 大樹

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