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2006年8月31日 (木)

出目王(デメキング)・・・6

 携帯電話を手にして通知された番号を見ると見覚えの無い数字が並んでいる。
 (誰だろう?)
 と思い出ると
 「ごめん!寝てた?」
 と元気のいい女の声が耳に飛び込んで来ていっきに目が覚めた。
 「誰?」
 「私よ」
 今度は声の主が瑞穂だということがすぐにわかった。
 「幽霊やなかったみたいやな」
 「ちゃんと足もあったでしょ」
 確かに夕方会った瑞穂には両足はしっかりあった。
 瑞穂に聞きたいことがいっぱいあリ過ぎる。
 何故養成所に入ったのか。病気はどうなったのか。何故夕方黙って姿を消したのか。そして一番聞きたいことは 何故中学を卒業したとたん黙って自分の前から姿を消したのか。
 とにかく謎だらけだった。
 何から聞いていいかわからず、とりあえず自分の携帯の番号をどこで知ったのかを尋ねた。
 「一カ月前に山下君と環状線で会って教えてもらったの」
 中学時代からの友人の山下なら瑞穂に拓哉の携帯番号を尋ねられたら迷わず教えるだろう。
 しかし拓哉の頭にある疑問が浮かんだ。
 山下とは先週久しぶりに会いミナミの居酒屋で朝まで飲んだ。しかし瑞穂のことは何も話さなかった。
 拓哉が瑞穂のことを忘れるのに半年かかったことも山下は知っていた。
 そんなことを考えていると逆に瑞穂から質問をぶつけてきた。
 「相沢君、相方は決まっているの?」
 「今日入学したとこや、これから探すよ」
 「良かったら私どう?」
 「お前と?」
 確かに瑞穂は中学の時笑いのセンスはあった。深夜放送に投稿してはよく記念品をもらっていて当時のパーソ ナリティーに名前を覚えられていたほどだった。
 「私と組んだらすぐに売れるわよ」
 「何言うてんねん」
 「ぼやぼやしてたら他の人とコンビを組んでしまうわよ。それでもいいの」
 彼女の積極的な性格は昔のままだった。
 そして中学2年の夏、瑞穂と交際を始めた時も同じだったことを思い出した。
 放課後補習を終え走って帰宅しようとする拓哉と部活帰りの瑞穂が正門を出たところでぶつかってしまい瑞穂は 転倒する。
 拓哉は瑞穂を起こし謝った。
 幸い瑞穂にケガはなくホッとした。
 瑞穂はとなりのクラスだったが可愛いく活発で明るい彼女は拓哉のクラスでも人気があった。
 その春に転校して来たばかりの瑞穂とは話したことは一度も無かった。
 ひたすら謝る拓哉に瑞穂は
 「許す代わりに家まで送ってね」
 と微笑む。
 川筋を3分ほど歩いたところで瑞穂が
 「私前から相沢君のこと興味あったの」
 「実は、俺もやねん」
 それから5分会話がないままひたすら川筋を歩いた。
 「相沢君、私と付きあってくれない」
 「ええ!」
 「ぼやぼやしてたら他の人と付き合うわよ。それでもいいの」
 それから卒業するまでまわりも羨むような拓哉と瑞穂の恋物語が続いた。
 「相沢君、私とコンビを組むの、組まないの」
 と激しく返事を催促する。
 「わかった。組もう」
 「じゃあ、がんばろうね」
 と一方的に電話を切る瑞穂。
 結局拓哉が聞きたかったことは何も聞けなかった。


 村上太
 

 

 

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2006年8月26日 (土)

出目王(デメキング)・・・5

階段を上りきってあたりを見回した。
雨はさっきよりも激しくなっていて、10メートル先も見えない。
瑞穂の姿も。

(どこに消えた・・・?)

地下への入り口にぼーっと立ち尽くす相沢を、たくさんの人が迷惑そうな目で階段を降りていく。
「兄ちゃんそこ邪魔やで!」
目の前に現れた大きなトラに言われて我に返った。
いやよく見たら言ったのはトラじゃなく、
リアルなトラが描かれたTシャツに黒いスパッツを着たオバちゃんだった。
ちょっと恥ずかしい気持ちになり、オバちゃんを無視して小走りで階段を下りた。
瑞穂の言葉を思い出しながら。

『・・・・・私なぁ・・・、死んでもうてん。』

(どういう意味なんや・・・?さっきのは幽霊なんか?いやまさか?脳死なったとか・・・?ちゃうやろな。なんの病気したかしらんけどけっこう元気そうやったな。そやけどなんでアイツがお笑いなんか?めっちゃ普通の子やったのに?)
数年ぶりに現れた瑞穂はナゾだらけであった。
「・・・まあええか。これから毎日養成所で会えるんやし。」


家に帰って、何か食べようと冷蔵庫を開けているとオカンが寄ってきた。
オカンは相沢の友達からは影で”グッチ”と呼ばれている。
顔がグッチ裕三に似ているからだ。
「アンタ、どうやった?」
「なにがやねん。」
「なにがて入学式やん。アンタ売れそうか?」
「入学式でそんなんわかるか!」
「今のうちにサインもろとかなあかんな。」
「うっさいんじゃ!むこう行け!」
これ以上オカンと喋りたくなくて、目の前にあった大福とコーラを取ってさっさと自分の部屋に入った。
(本物はおもしろいのになあ。似てるだけじゃあかんねんなあ。
俺あんなんの遺伝子で漫才できるんやろか。
あ、俺はツッコミしたらええか。はよおもろい相方見つけよ・・・・・・。)


♪♪♪こっいはサ~フィン! なっついろにイェ~イェ~! ひっかりよ~♪♪♪

(あれ!?今何時や!?)
いつの間に眠ってしまったのか、目覚めたときには大音量でタッキー&翼の着うたが鳴っていた。


『出目王』・・・5  杉岡みどり


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2006年8月22日 (火)

出目王(デメキング)・・・4

「ひさしぶりやのぉ。」と相沢。
「だよね。」とイタズラっぽく笑ってみせる竹下瑞穂。
「お前、その関東弁なんとかならんか?」
「だって・・・。」

「お前、生まれは何処やねん?」
「神田の生まれよ。」
「『おっ、江戸っ子だねぇ!』って返すか!ボケッ!お前もバリバリの姫路やないかい。」
「今のノリツッコミ?」
「お前は知らんやろうけどなぁ。世の中には色んなのりもんがあんねん。その上にまだ、 そんなんええねん。」

急ぎ足の相々傘で2人。離れていた時間などなかったような会話。
「相沢君って、昔から芸能界に憧れてたもんね。」
「まあな。・・・・・そやけどお前。  転校してちょっとしてから、なんでメールくれへんようになってん?」
「・・・・・。」
ミナミの地下街に入る所まであと少し。

「なんでお前がお笑いの養成所なんかにはいんねん?」半歩下がって傘を差し出しつつ歩く竹下瑞穂は答えに窮してるのか雨を気にしてるのか困ったような表情。
地下街に下りる階段に入った。雨をよける為か狭い階段に、後から後から人が入ってくる。

「栗原が言うてたけど、なんか、お前、ややこしい病気にかかったんやろ?」
後ろで傘をたたむ気配がない。

「そうや。 ・・・・・私なぁ・・・、死んでもうてん。」
人を押しのけダッシュで階段を上りながら叫ぶ。 「瑞穂! ちょっ・・・。 瑞穂!」


『出目王』・・・4 ティーアップ前田

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2006年8月14日 (月)

出目王(デメキング)・・・3


 入学式が終わりエレベータで降りて来ると外は小雨が降っていた。
 天気予報がハズレたらしくほとんどの者は傘を持っておらずエレベーターの前には人がたまっていた。
 (俺とコンビを組むやつは一体どいつやろ)
 と目をキョロキョロしていると長髪で革ジャンを着た30ぐらいの男が近づいて来て
 「あんた一人か?」
 と話かけられる。
 (何やこいつ)
 と思ったがそこは俺も大人
 「そうやけど」
 と答えるとすかさず
 「俺とコンビ組まへんか」
 確かに俺も相方を探してキョロキョロしていたが、あまりのストレートな言葉に返す言葉が出て来なかった。
 すると
 「俺と一緒にビックになろうぜ」
 (それもいうならビッグやろ!)
 と心の中で叫んだ。
 「俺とお前が組んだら敵なしやで」
 (今初めてしゃべったとこで何でわかんねん!)
 と再び心の中で叫ぶ。
 「なぁ、組もうぜ」
 とたたみかけるように話して来る。
 うまくいけば50年コンビを組むかも知れない漫才コンビの相方を名前も何も知らないで
 「わかりました」
 と返事をするやつがいると思っているのか・・・・・・。
 「おい、ちょっと待てよ」
 頭に浮かんだ精一杯の返事だった。
 その後やつの口から出た言葉にさらに驚いた。
 「俺はミスチルのように人の心に響く歌を聴かせるシンガーになりたいんや。お前は?」
 「はぁ?」
 「お前は何を目指してるんや?」
 「俺は勿論漫才を中心にテレビで活躍する芸人や」
 「あぁ、そっちね」
 (そっちもこっちも無い、ここに来るやつは皆そうやろ!)
 心で叫ぶ声が大きくなった。
 「シンガーになりたかったらバンドでも組んでライブとかやったらどうやねん。何でこんなとこに通うんや?」
 「この方が近道やろ」
 芸人でCDを出した人はたくさんいるがミスチルほどになった人は聞いたことがない。
 こんなやつに丁寧に断るのもあほらしくなり黙ってビルの外へ出た。
 振り返ると革ジャン野朗は歯抜けに声をかけていた。
 (何と切り替えの早い男や)
 しかしあきれて怒る気にもならない。
 何故か興味がありしばらく様子を見ているとウマが合うのか意気投合していた。そして肩を抱き合っている。
 どうしてそんなわずかな時間であんなに打ち解けあえるのか不思議だが自分には関係ない。
 しかしあの二人がコンビを組んでもし売れたら、俺は今からイチローを目指してやると心に誓い雨に打たれ走ろう とした時、オレンジ色の傘がそっと相沢を包んでくれた。
 振り返ると傘を持ってにっこり微笑んでいる女の子が目に飛び込んで来た。
 ピンクのシャツに白のスカート。ショートカットでメガネをかけ清潔感を絵に描いたようなかわいい子だった。
 どこかで会ったことがあるような気がするが思い出せないと思った瞬間彼女の口が開く
 「相沢君、久しぶりね」
 「・・・・・・・・」
 「ほら、私よ」
 中学三年の時付き会ってた竹下瑞穂(みずほ)だとわかるまで15秒かかった。
 「竹下か?」
 「そうよ、やっとわかってくれたのね」
 「お前、何でここに・・・・・。お前もまさか・・・・」
 「そうよ。そのまさかよ」
 とにっこり微笑んだ。


 村上 太
 

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出目王(デメキング)・・・2

(尼は尼やんけ。なんかひとつひとつムカつくやっちゃなあ・・・。こんなアホの歯抜け、絶対女から人気出えへんわ。)

自分が女から人気が出る保障などないのにそんなことを思った相沢は、それ以上喋る気が失せて黙った。
歯抜けも黙っていた。
その時、ちょうどオッサンの長いあいさつが終わり、かわりにさっきのオッサンより10才ぐらい若そうなオッサンが登場した。

(ん?なんか見たことあるようなオッサンやなあ・・・?誰や?)

すると歯抜けがうれしそうに喋りかけてきた。
「あれオドルが捕まったとき記者会見してた人やんな!」

言われてみれば、2年ほど前にベテラン漫才師『山川ハシル・オドル』のオドルが暴行事件で捕まったときにワイドショーで謝っていた人物だった。
東京での仕事を終えた『山川オドル』は新幹線で移動中に好物のみたらし団子が食べたくなり、
車内販売の女性に「オイねえちゃん!みたらし団子なんぼや!」と聞いたが、
新幹線では販売していないうえ「あべ川もちでしたらございますが」といわれたことに腹を立て女性に暴行を加えたという。
同じ車両に乗っていた複数の客が「モチと団子を一緒にすな!」との怒鳴り声を聞いたとインタビューにこたえていた。

相沢はこのタレント養成所を受けてから初めて『テレビで見たことある人』を見て、ようやく
(オレはテレビの世界に入ったんや)
と実感できた気がした。
さっきのオッサンは普通のオッサンに見えたので話を聞く気にならなかったが、こんどは全ての入学者が思ったようだった。
「この人の話は聞いとこう」と。


『出目王(デメキング)』・・・・・・杉岡みどり

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2006年8月12日 (土)

出目王(デメキング)・・・1

4月1日。お笑いタレントが多数在籍する某タレント事務所のタレント養成所入学式当日。
相沢拓哉は漠然と芸能界に憧れてはいたが己の容姿を考えると男性アイドルには到底なることは無理と考え今のお笑いブームに乗りさえすれば世の中を渡っていけると思っていた。

前で話すおっさんの話に飽きだした。周りに目をやり(ようさんおるけど、もっさいヤツばっかりやのぉ。)
偶然右隣に居合わせた野郎に小さい声で話しかけた。「なあ、ジブンどっから来たん?」
「えっ?俺か?」と、こちらに顔を向けたそいつには前歯が1本ない。(お前に話しかけてねんから、お前に決まってるやんけ。 で、なんやこいつ歯あれへんやんけ。 多分アホやな。)

「ジブンはどっから来たん?」と相沢の耳元に口を近づけ訊き返す歯抜け。
「違うがな。俺から訊いてんねん。」
「普通は自分から言うんとちゃうんか?」
(細かいヤツっちゃな。)「俺は姫路や。ジブンは?」と相沢。
「姫路か・・・。遠いな。」と言ってから顔を前に。

「・・・・(この歯抜けは、ほんまに。)あのな、お前はどっから来てんねんって訊いてんねん。」
「あぁ、俺か?」
「お前や。」
「俺は武庫之荘や。」
「なんや、尼(尼崎)か?」
「尼って言うな。」


『出目王(デメキング』・・・・・ティーアップ前田

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